49話 フェーンの実力
「ソラ、ソラ。わたし昨日、イノシーの煮物作ったんですよ。おひとついかがですか?」
「おー結構美味そう」
イノシーに攻撃して強制退場をくらった翌日。
ペナルティが解除されて入場が可能になり、再びユグドラタワーの地下2階層へとやって来た俺は、イノシーク討伐に出かける前にエルハイド族の集落にあるフェーンの家でちょっとしたおもてなしを受けていた。
「そういえば家の中に吊るされてたイノシーが無くなってるな……」
「一晩寝かせて味がしみしみですよ。はいどうぞ」
「これ、俺が食べて大丈夫なのかなあ……」
ユグドラタワー内のものを食べることについて不安が無いわけじゃ無いけど、既に地下1階層でピクシード族からグランルータの蜜を貰って食べた経験があるのでまあ大丈夫だと思う。あれからお腹とか壊してないし。
しかし、イノシーにちょっかいかけたのがNGだったことを考えると、このイノシー料理を食うことで再び強制退場になる可能性もなきにしもあらずな気がする。
「ソラはお肉嫌いですか?」
「いや、普通に好きだよ肉料理」
昨日も焼肉食べようとしてたしね。
っていうかエルフは野菜とか好きそうなイメージあるけど、エルハイド族は肉が好きなんだよな。
まあ、見た目が俺の知ってるアニメとかのエルフに似てるってだけだし、全然違う生き物なんだろうとは思うけど。
「もしかして……わたしの料理が食べられないって言うんですか」
「面倒臭い上司か何かかよ。そういうんじゃないよ」
「じゃあどうぞ食べてください。はい、あーん」
「う……」
木で出来たフォークのようなものに美味そうな肉の塊を刺して俺の口元に近づけてくるフェーン。
かわいい女の子にここまでされたら、さすがに食べないわけにはいかないな……
「あ、あーん……はぐ」
…………。
「むぐ、むぐ……」
「どうですか? 美味しいですか?」
「う……美味い」
これはあれだな、高校時代の修学旅行で沖縄に行ったときに食べたラフテーに似ている気がする。
ただ味はちょっと薄めで、多分お米を食べる為のおかず的な感じではなくて、単品で食べる用に味が調整されているからだと思う。
これはこれで、イノシー本来の美味しさを味わうことが出来るので良いね。
いやイノシー自体初めて食べたから本来の味も何も無いんだけど。
「ふっふっふ……そうでしょうそうでしょう。これがわたしの実力です」
「料理スキルは高いんだね」
「料理スキルはってなんですか。わたしは弓の技術もエルハイド族の中ではそれなりなんですから」
フェーンはそう言った後に『ただ、今持っているイノシー狩り用の弓矢の威力ではイノシークを倒せないのですが……』と呟いて、部屋の隅に置いてあったコンパクトサイズの弓と矢に視線を向けた。
たしかにこの弓ならイノシーを狩るのには使えそうだけど、イノシークの強靭な肉体を貫通させるのは難しそうだ。
「ソラは弓矢は使えないのですか?」
「俺は使えないね。今持ってる武器は打突用のやつだし」
ライザーカードを操作して、『黒鉄甲の打突旋棍』を装備状態にする。
するとフェーンは俺の持つトンファーのような武器をまじまじと眺めて一言呟いた。
「大ババ様が出かける時に使ってる木の棒に似てますね」
「いや歩行補助用のステッキじゃないからこれ」