45話 ライカツ!
ユグドラタワー地下2階層攻略、2日目。
リフトから出てエルハイド族が暮らす集落に立ち寄ると、そこは人っ子一人いない廃墟のような状態になっていた昨日とは違い、多くのエルハイド族の住民が家の外に出て活動していた。
「おお、今日はたくさんいる……いや、『いた』になっちゃった」
俺を見かけたエルハイド族たちが慌てて家の中に隠れてしまう。
なんかイノシークに間違われたみたいでちょっと落ち込むな……俺の顔、あんなにオークっぽくないよな……?
「あっソラじゃないですか。こんにちは」
「フェーン、こんにちはー」
「今日もいらっしゃいましたね。のこのこと」
「のこのことって」
頭のゆるいカモを見つけた詐欺師みたいな言いぐさのフェーン。
やはりこのエルハイド女子、おしとやかそうな見た目と口調のわりにだいぶお調子者である。
「俺が来たらみんな隠れちゃったんだよ」
「ソラの耳が短いから警戒してるんじゃないですか?」
「じゃあ警戒してないフェーンのほうが変なのか」
「わたしは昨日あなたに助けてもらっていますから。ソラの短い耳を見ても耐性があるんです」
俺の耳は見ると石化でもするんだろうか。
「まあいいや。フェーン、今日はイノシーク族のアジトに行ってくるから」
「遂にカチコミですね」
「いや、まずは様子見かな……」
俺は昨日フェーンから説明を受けたユグドラタワー地下2階層のフロア構造を思い出す。
ここにはエルハイド族たちが住む集落がある森林エリアの他に、食料であるイノシーなどの生き物が生息している草原エリア、そしてイノシークがアジトを構える岩山エリアが存在する。
この岩山エリアでイノシークに捕らえられたエルハイド族たちが、食料準備などの労働をさせられているという。
「でも良かった、イノシークがエルハイド族を食ってるわけじゃ無いんだよな」
「イノシークの主食はイノシーと同じく、木の実や植物の根、種子などです。彼らに捕まってしまった仲間たちは、岩山エリア付近で食料の栽培作業を強制させられています」
「農業させられてんのか。その……それ以外は?」
「それ以外と言いますと?」
「いや、それは……」
言えない……なんかエッチなこととかやらされてるんじゃないかとか流石に言えないぞ。
「あっもしかしてドスケベ性処理係ですか? そういうのは無いみたいです」
「察しが良すぎるのも問題だよ」
まあ、とりあえず胸糞イベントは発生しなさそうでよかった。
麦畑だったら『そこは需要アリだろ』とか言いそうだけど。
「岩山エリア周辺の栽培地帯には、作業するエルハイド族を見張るイノシークが何匹かいるはずです」
「分かった。それじゃあまずは様子見がてら、そいつらを倒してくるよ」
「期待して待ってますよ」
こうして俺は、イノシークが幅を利かせている岩山エリアへと向かって旅立つのだった。
……いや、そんな盛大なものではないのだけど。
「なんか、久々に麦畑に会って感化されたのかもな」
俺たちのライザー活動はまだまだ始まったばかりだ……いやこれだと打ち切り感がすごいな。
あとここにいるの俺一人だし。
「俺のアツいライザー活動、ライカツ! 始まります! フフッヒ」
よし、これで行こう。
「あっソラ、1個言い忘れてました」
「ん、どうしたのフェーン?」
「そっちから行くとわたしたちが仕掛けた串刺し落とし穴がたくさんありますよ」
「それを早く言ってくれよ!」