43話 それぞれの進路
「まさかタワーの地下にあんな種族が住んでいるとは」
本日のライザー活動を終え、ユグドラタワーの地下2階層からユグドラセンターへと戻って来た俺は、センターにあるカフェテリアで優雅にコーヒーブレイクを楽しんでいた。
いやまあそんなオシャレなもんじゃなくて、昨日の夜から妹たちの相手だったり、中々クセのあるエルハイド族のフェーンの相手だったりで少し精神的疲労が溜まってたからバイト前に休憩してるだけなんだけど。
あとここカフェテリアじゃなくて自販機とベンチが並んでるだけの休憩スぺースだし。
「今月はまだギチギチにシフト入ってるからなあ。頑張らないと」
ここ最近になってようやくライザー活動で多少稼げるようになってきた俺は、来月からバイトのシフトを減らしてその分ユグドラタワーでの活動時間を増やすことにした。
いずれはライザー活動だけで安定して食っていけるようになれば、それが1番だ。
世間の夢追い人たちも、本業で稼げない下積み時代はこうやって生活しているんだろうな。
「あれっ? もしかして和取?」
「ん……?」
そんなことを考えながら、紙コップに入った1杯90円のカフェラテをちびちびやっていた俺に誰かが声をかけてきた。
「……もしかして、麦畑?」
「久しぶりだな~和取!」
「こっちこそ! 1年……いや、1年半ぶりくらいじゃないか?」
俺に声をかけてきたのは、牛乳瓶の底みたいなラウンド型の大きな眼鏡をかけた小柄な男。
高校時代の同級生であり、多分1番仲の良かった友達の『麦畑ミツル』だった。
「麦畑、こんなところで何やってんの?」
「ここ最近アシの仕事が落ち着いてきたから自分の作品用のネタ集め中ってところ。まずは新人賞だな」
「……漫画家、頑張ってんだな」
「まあな。つっても、まだデビューすらしてないからアシスタントやってるだけの漫画家見習いだけど」
高校を卒業してライザー兼フリーターになった俺に対し、麦畑はイラストの専門学校へと進学。
2年前に専門を卒業してからは、漫画家を目指して他の漫画家さんのアシスタント業務をしながら自分の漫画を描いて出版社などに送ったりしているらしい。
麦畑がアシスタント業務を始めてからは、仕事がだいぶ忙しいようでここ最近は全然会えていなかったが、なんとか元気にやっているようだ。
「ネタ集めでユグドラタワーに来るってことは、タワーとかライザーをテーマにした漫画でも描くのか?」
「どっちかというと、ユグドラセンターをテーマにした作品かな」
「センターをテーマに? そりゃまた珍しい」
ユグドラセンターは、ユグドラタワーの攻略を行なうライザーのサポートや管理をするための役所兼、観光資源としてユグドラタワーを活用するための複合施設だ。
ユグドラタワーや、タワー内に出現するモンスターをモチーフにした土産物店やレストラン、人気の高ランクライザーのグッズを販売する店なんかも入っている。
俺が今いる自販機コーナーじゃなくてちゃんとしたカフェもある。お値段はそれなりにするけど。
「タワーやライザーの活躍をテーマにした漫画なんて今じゃ珍しくないだろ? だから僕はあえてセンターに集う人間模様とかに焦点を当てたって訳だ」
「なるほどな」
なんか漫画家っぽい着目点かもしれない。知らんけど。
「というわけで、早速いいネタを見つけたぜ。色々な店があるユグドラセンターで、あえて自販機横のベンチで90円の安いコーヒーを飲んで黄昏ているうだつが上がらない底辺ライザーの和取にインタビューでもしていくか」
「おいこの野郎」
そんなことを言った麦畑は、彼が高校の時にこっそりノートの端に描いたパラパラ漫画を自慢してきた時のような、カラッとした笑顔を浮かべたのだった。