42話 地下2階層の進め方
「突然変異?」
「はい……」
エルハイド族の集落を襲っていたイノシークというモンスターについてフェーンに話を聞いたところ、彼女たちの狩りの対象であり、食材でもある『イノシー』という生き物が何らかの原因で突然変異し、あの巨大なブタ人間『イノシーク』になったという。
……進化の石でも見つけたんかな。
「ちなみにこれがイノシーです」
「あっコイツ? これイノシーだったんだ」
フェーンの家の中に食材として吊るされていた、頭がブタで身体がアザラシみたいな謎の生き物の肉。
どうやらこれが突然変異を起こして人型化し、捕食者だったエルハイド族に牙を剥いてきているということらしい。
「イノシークはこの先にある岩場に住処を作り、誘拐したエルハイド族を奴隷のように扱っています……わたしの両親も捕まってしまいました」
「元々は食料として狩りをしていたんだろ? 応戦しなかったのか?」
「イノシーを狩るために使用していた弓矢では歯が立ちませんでした。一応、集落ごと定期的に移動して襲われにくくしたり、周囲に罠を設置してなんとか数匹倒しはしましたが、こちらの被害の方が大きいです」
「そうか……って、罠? この辺り、罠とかあんの?」
「ありますよ。落ちたら串刺し間違いなしです」
「…………」
あ、あぶねー……まさか串刺し落とし穴があるとは思いもしなかった。
いや、タワーの上階層には中盤の階層辺りまでいくとダンジョントラップとかも設置されてるとは聞いていたけど、地下1階層には何も無かったから油断してた。
「このフロアにいるイノシーが、全てイノシークになってしまったというわけではないんだな?」
「はい。数は減ってしまいましたが、通常のイノシーも生息しています。しかし、イノシークはイノシーを捕まえてどんどん仲間を増やしています……」
フェーンの話によると、1番最初に突然変異を起こしたイノシーク……恐らく、そいつがイノシーをイノシークにしてしまうアイテムを持っており、それをどうにかしない限り、イノシークは増え続けるということだった。
「ソラ、お願いします。エルハイド族の力では中々太刀打ちできないイノシークを一撃で倒してわたしを助けてくれたあなたなら、イノシークに囚われたエルハイド族の仲間たちを助けることができるはず。どうか、力をお貸しください」
「まあ、それは元々そのつもりではあるんだけど……イノシーを食料としてるエルハイド族が、イノシークに恨みを買われて襲われるのはある意味当然の報いなのでは?」
「…………」
「いやほら、因果応報……とまでは言わないけど! 自然の摂理と言いますか、形勢逆転と言いますか」
「それってあなたの感想DEATHよね」
「なんか『です』の言い方ネイティブじゃなかった?」
窮鼠猫を嚙む……とはまたちょっと違うのかもしれないけど、殺していいのは殺される覚悟がある奴だけというか……まあでも、普段食ってる豚肉がオークになって襲ってきた時に誰かに助けてもらえたら、みんな今のフェーンみたいに討伐をお願いするよな。
あとだいぶ最低なことを言うと、イノシークよりフェーンのほうが可愛いし。
「せっかく助けた子がまたあのブタ男に捕まる所は個人的に見たくはないので、エルハイド族に協力するよ」
「ソラならそう言ってくれると思いました! ギッタギタのメッタメタにシメて鳥葬の刑に晒してやってください!」
「もういいよ鳥葬ネタは」
こうして俺は、ユグドラタワーの地下2階層でオークっぽいモンスターからエルフっぽい人を助けるイベントを進めることになったのであった。