41話 エルフっぽいのとオークっぽいの
「エルハイド族? エルフ族ではなくて?」
「エルフ族ってなんですか? わたしたちと似たような種族がいるんですか?」
「いや、まあ……いないこともない、かも」
ブタ男のモンスターを討伐した俺にお礼がしたいということで、助けた少女の家にお邪魔させてもらうことになった。
頑丈な白い布で覆われた家の中は、なんと説明すればいいのだろう……モンゴルの遊牧民のテントとか、アフリカの民族が住んでそうな伝統的な内装をしていた。
「改めまして、先ほどは助けていただき本当にありがとうございました。わたしはエルハイド族のフェーンです」
「俺はソラ。種族は……なんだろう、ヒト族? 人間族とか? まあそんな感じ。よろしくね」
「ソラ……良い名前です」
「本当? ありがとう」
「古代エルハイド語で『鳥葬』という意味です」
「じゃあ全然良くないよ。不吉すぎるだろ」
鳥葬って、死体をバラバラにして鳥に食わせる弔い方法だよな……えっ俺の名前、そんな意味があんの?
ってか古代エルハイド語ってなんだよ。
「えっと、フェーンさんは」
「フェーンで良いですよ、鳥葬」
「ソラだよ」
「おっと失礼、うっかり間違えてしまいました」
「…………」
この子、意外とお調子者というか、肝が据わってるタイプだな。
「それで、フェーンはこの街に1人で住んでるの?」
「いえ、『イノシーク』のせいで減ってはしまいましたが、他にも住んでいますよ」
フェーンの説明によると、さっき俺が倒したオークのようなモンスターはイノシークというらしい。
なるほど、エルフっぽいのがエルハイドで、オークっぽいのがイノシークね……ソラ、覚えた。
「エルハイド族は擬態が得意なんです。景色に溶け込み、息をひそめ、存在を薄め……獲物を狩る」
フェーンが『見ていてください』と言って部屋の奥に移動して後ろを向く。
すると、彼女のライムグリーンの髪が背後の白い布と同じような色に変化していき、更には肌の色や着ている服まで徐々に布壁と同じ色に変わり、最初から注目していなかったら一瞬どこにいるか分からなくなるレベルにまで存在感が無くなった。
「すご……まるでカメレオンだ」
「カメレオンってなんですか?」
「説明が難しいね」
舌がびよーんって伸びる擬態が上手いモンスターとか言ったら『わたしの舌はびよーんって伸びません』とか怒られそうだ。
「ここに来る途中にもわたしたちの家がたくさんあったでしょう? みんな、イノシークが来たから家の中に隠れて息をひそめていたんです」
「なるほど、それで家はあるのに人の気配を感じられなかったのか」
モンスターに襲われないために、居留守レベル100みたいなことをみんなしてやってたわけね。
「あれ、じゃあなんでフェーンはイノシークに襲われてたんだ? さっきの擬態を見た感じ、普通に隠れるの上手そうだったけど」
「イノシークが家の中に入ってきて、わたしの下着が入っている箱を開けようとしたのでムカついてつい一発入れてしまいました」
「……君、やっぱ肝が据わってるね」
「鳥葬みたいな名前のあなたほどではありません」
「古代エルハイド語じゃないから俺の名前」