37話 襲撃☆ツインズ
「それじゃあパモチ、またね」
「また遊びに来てね、ソラっ!」
魔装変身を解除して普通の人間に戻った俺は、パモチと別れて攻略を完了した地下1階層を後にした。
「これで、地下2階層に行けるようになるんだよな」
【地下階層用フロアキー】
・転移階層:地下2階層
・入手条件:地下1階層の『蜚蠊女王の洞』でクイーン・ブラックジェットローチを討伐する。
ユグドラタワー内の階層を移動するリフトに乗り込み、内部に設置されているフロアキーの差込口に『-2』という数字が刻まれた黒いフロアキーを差し込む。
すると、フロアキーは差込口の中に吸い込まれていき、リフトの入り口横にある転移可能階層のボタンに『-2』が追加された。
「よし。それじゃあさっそく新たな階層に……」
…………。
「いや、今日はもう上がろう」
クイーン・ブラックジェットローチの討伐が大変だったというのもあるけど、どちらかというと魔装の影響が強いかもしれない。
成長して『NULL』から『ヴェノムイーター』となった魔装の新機能『魔装変身』を試した後からめちゃめちゃ身体が重いのだ。
「魔装変身ってかなり体力消耗するんだな……今度発動するときは後の事をちゃんと考えないと」
俺は地下2階層へと向かうボタンではなく、タワーの外へと続く『EXIT』のボタンを押して本日のライザー活動を終了した。
―― ――
「今日はバイトも無いし、久々に飲んじゃうぞ~。浴びるように酒を……2、3本」
ユグドラタワーを出て、近所のコンビニで夕食とお酒とツマミを買って帰路につく。
普段は値段を考えて少し離れているスーパーで食材を買って自炊しているんだけど、まあ今日くらいは割高弁当で贅沢しても良いだろう。
お酒についても、ライザー活動の事を考えると二日酔いになるレベルまで飲んだりはしないんだけど、まあ、今日くらいはね……とは言ってもアルコールに弱いから5%の缶チューハイ数本でダウンすると思うけど。
「それにしても、これ……やっぱり外で使えるのって普通じゃないよな」
コンビニの袋を持つ右手にきらりと輝く指輪型の魔装。
ユグドラタワーが出現し、内部の攻略・調査が始まって約10年、魔石以外のタワー内アイテムが外でも使用可能になったという話は聞いたことが無い。
普通は装備中の武器や魔装であってもタワーの外へ出る時に自動で消滅し、ライザーカード内のインベントリにデータとして収納されるようになっている。
「……魔装変身!」
…………。
「さすがにここじゃ出来ないか」
周りに誰もいないことを確認して魔装変身を試してみるも、あのクリーチャーのような姿に変身したりはしなかった。
身体能力向上効果は発動しているが、タワー内部にいる時ほど人間離れした動きが出来るわけではないので、やはりこっちの世界とあっちの世界ではその辺り何か違いがあるのだろう。
「身体能力向上……もしかして、内臓とかも強くなってたり? お酒めっちゃ飲めたりしないかな」
そんな感じで魔装の可能性について考えながら自宅のアパートまでやってきた時だった。
「あっやっと来た! ソラにーちゃん帰って来るのおそーい!」
「ソラにい……一人でなにブツブツ言ってるの?」
「……えっ?」
女の子が二人、俺の部屋がある扉に寄りかかってこちらに手を振っている。
「ヒナとルナ? こんなとこで何やってんだ?」
彼女たちは俺の双子の妹、ヒナとルナ。
まだ中学生なので、一人暮らしをしている俺とは違って両親と実家暮らしだ。
実家からここまで電車で2時間くらいかかったと思うんだけど、2人だけでどうしたんだろう。
「ケータイに電話したのに全然出ないしさー」
「ああ、ゴメン。ユグドラタワーにいたから電話切ってて」
「レインにメッセージも送ったんだけど……」
「マジ? 見てなかったわ」
鞄からスマホを取り出してメッセージアプリを確認する。
『ソラにい、家出したから今日泊めて』
…………。
「えっ!? 家出!?」