32話 蜚蠊女王の洞
「よし、だいぶトンファー捌きにも慣れてきたぞ」
クラフターに『黒鉄甲の打突旋棍』というトンファー型の武器を作ってもらってから数日、俺は武器を最大限活用するために空手を再開し、トンファーを用いた戦い方も練習した。
『そんなことせずさっさと地下1階層のボスに挑めば良いじゃないっすか』との声も一部バイトの後輩などから上がっていたが、ボス戦に負けたらどうなるか分からないので戦うことにかなり慎重になっていた。
「地上階層のフロアボスの感じで挑んでそのまま負けて死んだら……うわ、なんか怖くなってきた」
通常、フロアボスとの戦闘で負けた場合、1度目はボス部屋の前に強制転移となり、その際にタワー内で受けた怪我などは全て回復……というか最初からダメージなど受けていなかったかのような状態になる。
これが通常のモンスターであれば、タワーの外に転移し、その日はもうユグドラタワーに入ることが出来なくなって攻略の続きはまた明日。となるわけだが、フロアボスに関しては1度負けてボス部屋の外に出されても再入場してまた挑むことが出来る。
しかし、1日のうちに2回フロアボスに負けた場合、強制転移は起きずにそのまま現実の死が訪れる。
そしてこれは地上階層のフロアボスに挑む場合で、地下階層のフロアボスに関しては恐らく俺が初めての挑戦者なのでどうなるか分からないのだ。
もしかしたら1回負けただけでそのまま死んでしまう可能性もあるので、出来れば確実に倒せる実力が身についたと実感できたところで挑みたい。
「やっぱりあえて1回ブラックジェットローチの孵化イベントを発生させて戦った方が……」
「ソラ! 早くしないと悪いヤツらがまた生まれちゃうわっ! はやく親玉をぶっ倒してっ!」
「あ、はい」
パモチに急かされてしまっては仕方がない。フロアボス以外のブラックジェットローチは全て倒すことが出来た今の実力を信じてボスに挑もう。
「いざ、ブラックジェットローチのクイーン……蜚蠊女王の洞を攻略するぞ!」
―― ――
地下1階層の中央にそびえ立つグランルータを登り、植物のツルなどで覆われた巨大な木の洞の前までやって来る。
ここは蜚蠊女王の洞。中ではフロアボスが産卵した卵を守っているはずだ。
「えーと、ここにライザーカードをかざして……」
入り口の横にあるマークにフロアランク11になったライザーカードをかざすと、解放条件が達成されて入り口を覆うツルやツタがスルスルと避けていく。
すごい! ツタが避けてく!(ト〇ロ並みの感想)
【蜚蠊女王の洞】
・解放状況:挑戦可能
・解放条件:フロアランク11を達成する。
「おお、入れるようになったぞ。まあこの間、確認で1回来てるからここまでは知ってたんだけど」
解放条件がフロアランク11ってことは、多分地上の第10階層前後のフロアボスと同じくらいの強さなんだろうな……そうだと良いな。
「よーし、気合いを入れてフロアボスを倒すぞ!」
「ソラ、遂に最終決戦よっ! ワタシたちの住処を取り戻してっ! あ、ワタシはここから先にはいけないから! でも心は一緒よ!」
「さいですか」
その心、もしかして笑ってない?