26話 第1階層フロアボス
「ぽよっ……」
「ぽよ~!」
「ぽよぽよっ!!」
「はあっ!!」
パン! パン!! パァンッ!!!!
「「「ぽ、ぽよ…………」」」
…………。
ユグドラタワー第1階層のフロアボス『トライスライム』との戦闘が始まって数分後。
目の前には俺の蹴りでコアを破壊され、静かに消滅していく3匹のスライムの残骸が僅かに残っていた。
「た、倒せたのか? なんかあっけなかったな……」
今まで散々負けてきた相手だったのでかなり気合を入れて挑んだのだけど、3匹からの同時攻撃も余裕で回避できたし、こちらの攻撃もすんなり通って文字通りものの数分で倒すことが出来てしまった。
まるでゲーム序盤のチュートリアル用ボス戦みたいだ。
「いや、まさにその通りだったんだろうな」
今までの俺が一生チュートリアルに苦戦してただけで、本来はライザー初心者がそこそこ頑張れば倒せるくらいの強さなのだろう。
数年かけてチュートリアルをクリア出来たことが嬉しいような、拍子抜けのような何とも言えない気持ちになってしまう。
「あ、これって……」
消滅したトライスライムの跡に残されていた鍵を拾ってライザーカードで確認する。
【フロアキー】
・転移階層:第2階層
・入手条件:第1階層のフロアボス討伐で獲得。または通常モンスターから低確率でドロップ。
「第2階層への、フロアキーだ……」
最初に手に入れた地下階層用の黒いフロアキーとは違い、白銀の輝きを放つ薄い金属製の鍵には、刻印された『2』の数字の前に『-』はついていない。
正真正銘、ユグドラタワーの上階層へ行くための鍵を遂に手に入れたのだ。
「これで俺もフロアランク2……第2階層に行けるんだ……!!」
フロアキーを手に入れたことでようやく実感が湧いて嬉しさが込み上げてきた。
ライザーになって早数年。ここまで諦めずに活動を続けてきて良かった……
―― ――
「よし、これで第2階層に行けるようになったわけで、時間は……まだ余裕あるな」
第1階層のフロアボスを倒した後にユグドラタワーの活動可能時間を確認したところ、まだ1時間も経っておらず体力的にも余裕があったため、このまま第2階層へ向かうことにした。
リフトに乗り込んで先ほど手に入れたフロアキーを差し込むと、リフトの入り口横にある転移可能階層のボタンに『2』が追加された。
これで俺が行ける階層は第1階層、第2階層、そして地下1階層。
今まで数年かけて第1階層以外どこにも行けなかったことを考えれば物凄い攻略速度だ。
「地下階層に行ったときはかなり戸惑いとか不安もあったけど、今回は純粋に楽しみだ」
ポーン、と音が鳴ってリフトの扉が開かれる。
長年夢にまで見たユグドラタワーの第2階層へ向かって、逸る気持ちを抑えながら一歩踏み出した。
「ここが、第2階層……!」
…………。
低い天井に、石造りの迷路のような壁と風景がひたすら続く。
……うん。第1階層とほとんど変わんないわこれ。
「そういえば地上階層って出現するモンスターが変わるだけでフロアの内装や地形はずっとこんな感じなんだっけ」
ユグドラタワー内に撮影器具を持ち込めないので、実際に活動しているライザーの話や風景を描き起こしたイラストだけでしか見たことなかったけど、基本的なダンジョンエリアの構造はほとんど変化が無いらしい。
一応10階層ごとにモンスターの出現しない開けたエリアが存在していて、そこはライザーが集まるちょっとした広場のような所になっていると聞いたけど、その最初の広場があるのは第11階層らしい。
第2階層に上がっただけでは特に面白い変化は無いのだろう。
「まあ良いや。とりあえず出現するモンスターは第1階層とは違うはずだから、どれくらい強いのか確認を……」
そんなことを考えながらフロアを進んでいくと、1匹のモンスターが出現した。
「ぽよ!」
「……いやまたスライムやないかい」
第2階層に出現するモンスターはライムグリーン色をした半透明のスライムだった。
まあ知ってたけどね。先に攻略を進めてるコハルさん達から聞いてたし。
【ヒールスライム】
・生息地:第2階層
・ドロップ:赤の魔石、ヒールスライムの体液
「ヒールスライムか……たしか再生能力があって、倒すのに時間かけると厄介なんだっけ」
フロアごとに種類は異なるが、第1~10階層に出現するのはフロアボスも含め全てスライム型のモンスターらしい。
とはいえ油断するわけにはいかない。めっちゃ速かったり猛毒だったりするやつもいる……かもしれないし。
「よし、フロアランク2になった俺の実力、見せてやるぜ!」
「ぽよ!」
こうして俺のユグドラタワー第2階層の攻略が始まった。