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2話 不本意な本業



 ユグドラタワーでの活動を終えた俺は、一人暮らしのボロアパートに帰宅して少し仮眠を取ってから、バイト先のファーストフード店に向かう。

本当はライザーとしての稼ぎだけで暮らせていけたら良いんだけど、今の実力ではそれも叶わないので主な収入はバイトに頼らざるを得ない。



「はあ……現実は厳しいな」



「和取先輩、何がキビしいんすか?」



「ああ、日奈多さんか。おはよう」



「お疲れっす~」



 店の裏口にある従業員室に入ると、高校の制服を着たショートカットの女の子に遭遇する。

この子は日奈多アオイ。近所の女子高に通う女の子で、俺にとってはバイトの後輩というやつだ。



「今上がり?」



「そっすよ。先輩は相変わらず夜勤なんすね」



「休日のピークに駆り出されたりしなければ大体夜勤かな。時給が良いし、客も少ないしね」



「良いな~うちも夜勤がやりたいっす」



「日奈多さんはまだ16才でしょ? 未成年は22時以降は条例でだね……」



「そんなの分かってるっすよ~。ねえ先輩、時給交換しません?」



「するわけないでしょ。俺になんにも得が無いじゃないか」



 そんな調子のいい事を言う日奈多さん。

明るくて誰とでもすぐに打ち解けられる彼女と一緒に働いていると、良い意味で他の悩みがどうでも良くなって前向きになれる気がする。

しかし日奈多さんがカウンターに立つと普段よりお客さんが体感2割くらい増えて仕事が忙しくなるので、メリットとデメリットでプラマイゼロというか、表裏一体である。



「今日もタワーに行ってきたんすか?」



「行ってきたよ。まあ、結果はいつも通りだったけど」



「相変わらずのアンラッキーが続いてるっすね」



 ユグドラタワーの階層を攻略し、上の階層へ行くためには『フロアキー』と呼ばれるアイテムを入手する必要がある。

このフロアキーの入手方法は2通りあって、ひとつは攻略中の階層のフロアボスを倒すこと。

そしてもうひとつの方法は、ひたすら通常モンスターを倒すこと。



 フロアボスを倒せば確実にフロアキーが手に入るが、通常モンスターからも低確率だがドロップする場合があるのだ。

この確率は階層を上がるごとに低くなり、第1階層の時点で5%程度と言われている。

つまりフロアボスを倒すことができなくても第1階層であれば、計算上は通常モンスターを20匹前後倒せばフロアキーが入手出来て第2階層へと上がれる……はずなんだけど。



「もう1万匹近く倒してるはずなのに、一向にフロアキーがドロップされないんだよね」



「5%を1万回外すとか逆に運良いっすね先輩」



「全然良くないよ」



 さすがにここまでフロアキーがドロップできないと、普通のゲームならバグを疑うレベルだ。

しかし、ユグドラタワーは突如この世界に現れた未知のダンジョン。

内部では何が起きても、逆に何も起きなくても自己責任……本当にバグだったとしても文句を言う相手もいない。



「フロアボスはまだ倒せそうにないっすか?」



「あ、ああ……一応、挑戦してみてはいるんだけどね」



 フロアボスに挑めるのは1日1回。

正確に言うと、やろうと思えば1日2回以上挑むことが出来る。

しかし、実際に2回以上ボスに挑戦する人は滅多にいない。



 どういう仕組みになっているのかは不明だが、1回目の挑戦でボスに負けても死ぬことはないが、2回目以降の挑戦でボスに負けると現実の死が訪れるのだ。

通常モンスターでも負けるとペナルティのようなものはあるけど、さすがに死ぬことはないからボス部屋だけのシステムなのだろう。



「やっぱ、タワー攻略は命あっての物種だからね。まあ、そんな安全パイを選んでるからいつまで経っても第2階層に行けないのかもしれないけど」



 ユグドラタワー的にも第1階層はチュートリアル扱いなのか、第2階層以降でしかドロップされないアイテムなんかも存在する。

つまり、第1階層では何も自身の強化が出来ないということだ。素の状態で第1階層もクリアできないような実力であれば、大人しくライザーになるのを諦めろということなのかもしれない。



「今のままじゃ自称ライザーのフリーターだもんなあ。いつまでバイト生活を続けなきゃいけないんだろう」



「うちは今のままの先輩でも良いと思うっすけど。ライザーの稼ぎだけで暮らせるようになって、先輩がバイト辞めちゃったら寂しいっすもん」



「日奈多さん……」



「というわけで、できればうちが高校卒業してバイト辞めるまでは万年チュートリアル先輩のままでいてほしいっす!」



「おい!」



 くっそお……! ぜ、絶対ライザー1本で食っていけるようになってやる……!


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