19話 無制限攻略
「よっしゃ、魔石ゲットだ!」
地下1階層でのライザー活動を開始して数時間が経過した。
ライザーカードに表示された活動可能時間は相変わらず残り3時間のまま減少しておらず、逆に地下階層に来ると表示されるカウントアップの活動経過時間は【04:12:08】の値を示していた。
「うわ、とっくに3時間越えてるじゃん……」
普通なら活動可能時間を迎えるとユグドラタワー1階のリフト前、つまりタワーの外に強制転移されるはずだ。
実際に俺もライザーになりたての頃、スライムとの戦闘中にタイムオーバーでフロアから追い出されたことがある。
攻撃して逃げて休憩をひたすら繰り返して、ようやく倒せそうなところまでいって時間切れだもんなあ……あのときは流石に凹んだ。
「いやまあ、スライム1匹に数時間もかけてるほうが悪いんだけどね」
昼過ぎにここへ来て4時間経ったということは、外の世界はそろそろ夕方か。
さすがにこの地下1階層は夕暮れで空がオレンジ色になったりはしないようだ。
「夜の間もずっとこの明るさなんだろうか……いや、そもそも夜とか朝とかあるのか?」
「夜はグランルータが闇夜を照らしてくれるわっ!」
「うわっ! って、なんだパモチか」
俺がブラックジェットローチと戦っている間、近くの茂みに隠れて様子を伺っていたパモチが戦闘が終わったのを確認して飛び出してくる。
「グランルータの周りには陽の光を蓄えたキノコや苔が生えているのよっ!」
「なるほど、じゃあ夜はその植物が発光して明るくなるってことか」
「そうよっ! でも今は悪いヤツらがいっぱいグランルータにいるから、あんまり明るくないのっ」
「光源を覆うゴキブリ……恐怖だなそれは」
パモチたちの穏やかな夜を取り戻すためにも、頑張ってブラックジェットローチを倒さないと。
―― ――
「おお、発芽レベル5か……1日でこれだけ成長したのは中々なんじゃないか? いや比較対象が無いからわからんけど」
ピクシード族の住処で休憩をはさみつつ、5時間ほど地下1階層でブラックジェットローチを倒し続け、本日のライザー活動は終了。
いつもは3時間という活動可能時間の縛りがあるから、こんなにユグドラタワーに滞在したのは初めてだ。
「それに……ふふ、ふふふ。こんなにお金が稼げたのも初めてだ……!!」
ブラックジェットローチを討伐したときにドロップした高品質の赤の魔石。
魔装の育成のためにほとんど使ってしまったけれど、何個か手元に残して魔石換金所に持って行ったところ、6000円ほどの収入を得ることが出来た。
いつもは砂粒みたいな大きさの低品質の魔石を売って数百円稼げれば良いレベルの収入しか得られてなかったから、この6000円は自分にとって嬉しい稼ぎだ。
「ていうかこれ、魔装の育成に使った分の魔石も全部合わせて売ったら数万円になったんじゃないか……?」
この稼ぎが安定して出せるなら、ライザー活動だけで暮らしていける……バイト生活から脱却できるぞ!
「へへ、へへへ……6000円……ゼロケタが、1、2」
「和取セ~ンパイッ!」
「さんまうわっ!?」
「サンマ?」
いつもより桁が多い魔石の換金レシートを眺めながら帰り道を歩いていたら、背中から大きくて元気な声と共に誰かに抱き着かれたような感触が。
まあ、こんなことをしてくるのはバイト先の元気な後輩しか心当たりがないのだが。
「なんだ、やっぱり日奈多さんか」
「なんだとはなんすか。スーパー美少女ガールJK日奈多アオイ見参っすよ」
「美少女とガールとJKが微妙に意味被ってるよ」
サハラ砂漠デザートって感じ。
「和取先輩、これからバイトっすか?」
「いや、今日はシフト入ってないよ。普通に家に帰るとこ」
「そうなんすね。てっきり週9くらいでバイトしてるんだと思ってました」
「労働基準法って知ってる?」
てかそれだと1日2回シフト入ってる日があるじゃん。
いやまあ、無い事も無いんだけどね……早朝シフトの人が急に休んで人手が足りない時に夜勤終わってそのまま働いたりね。
「日奈多さんはバイト終わり?」
「そうっすよ。学校終わってバイトして、もうクタクタっすよ~」
「あはは、お疲れ様」
学校疲れるよなあ。
俺も大体ライザー活動を終えてからのバイトだけど、多分学校からのバイトの方が精神的に疲労すると思う。
「日奈多さんは頑張ってるね」
「そうっすか? へへ……あ、そういえば和取先輩、今日バイト無いんすよね」
「え? うん……」
「じゃあ、これから一緒にごはんどうっすか?」