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17話 グランルータの蜜



「さあさあソラチ、これをどうぞっ! お花畑で採れた蜜よっ!」



「こっちの野イチゴも美味しいわよソラチッ!」



「あ、ありがとう……あと俺の名前ソラチじゃなくてソラね」



 泉のほとりにある巨大なシイタケみたいな木の下に連れて行かれた俺は、そこでピクシード族たちから熱烈な歓迎を受ける。

っていうか、ユグドラタワーの中にあるものを食べたの初めてだな……味は普通に美味しいけど、後でおなか壊さないか心配かも。

未知の細菌とかいるかもしれないし。



「えっと、君の名前は……」



「ワタシはポムチよっ!」



「ポムチ、よろしくね……そっちの君は?」



「ワタシはモナチよっ!」



「モナチ……二人ともよろしくね」



「「よろしくねソラチッ!」」



「ソラだよ」



 この後も何人か名前を聞いてみたところ、どうやらピクシード族はみんな『〇〇チ』という名前になっているようだった。

なんか可愛らしい感じで、良いね。



「ソラ、ソラッ!」



「ん、どうしたんだいパモチ?」



「さっきね、族長にソラが悪いヤツを1匹倒したことを話したのっ!」



「族長?」



「あそこにいるのが族長よっ!」



 泉の浮かべた葉っぱの上に寝っ転がってこちらに手を振るセクシーなピクシード族を発見する。

あれだな、ピクシード族って見た感じ女性……というか、メス個体しかいないんだけど、どういう種族なんだろう。



「それでね、ワタシを助けてくれたソラにね、これを差し上げなさいって! はいどうぞっ!」



「あ、ありがとう」



 興奮気味のパモチから小さな木の実の器に入った黄金色の液体を受け取る。

液体はかなり粘り気があるようで、トロリとしていてハチミツみたいだ。



「これは……?」



「グランルータの蜜よっ! あの悪いヤツらにワタシたちの住処が占領されてからは中々食べられなくなっちゃって貴重なんだからっ!」



「そ、そうなんだ」



 ピクシード族が暮らしていたグランルータの木から採れるという、グランルータの蜜。

ブラックジェットローチに占領される前に採取しておいた貴重な蜜を族長が是非俺に食べて欲しいと分けてくれたらしい。

とはいっても、これ要は樹液だもんな……子供の頃、飼ってたカブトムシ用の蜜を舐めてみたことがあったけど、味の薄い黒蜜って感じで全然美味しくなかった記憶がある。



「そ、それじゃあありがたくいただくね。ペロッ……」



 …………。



「こっこれは!」



「どうかしらっ?」



「めっっっちゃ美味い!!」



 指で少し掬って舐めてみると、濃厚な甘みを感じるとともに、色々な種類の花とフルーツを混ぜ合わせたような、なんとも表現しがたい芳香が口の中に広がって鼻から抜けていく。

なんだろう……カブトムシの餌の樹液とは全然違うし、ハチミツでもない……メープルシロップ……?



「色々なジャムと蜜を混ぜ合わせたような……究極完全態グレートシロップ? とにかく、これはとっても美味しいね」



「そうでしょそうでしょっ! あ~良いな~ワタシもグランルータの蜜食べた~いっ!」



「じゃあ、これ食べる? 俺は一口で満足したから」



「いいのっ!? あっ、でも~……」



 パモチが族長の方を向いて何かを探っている。

なるほど、俺用に特別に出してくれた大切な蜜を勝手に食べるわけにはいかないと。

でもこのグランルータの蜜、人間の俺のサイズに合わせて出してくれたから結構量があるんだよな。

パモチたちならみんなで一口ずつ食べても全員に行きわたるくらいだ。



「族長さーん! グランルータの蜜、みんなに分けてあげても良いですかー?」



 泉に浮かぶ族長に声をかけると、グッと親指を立ててくれた。多分オーケーということだろう。



「ほら、族長さんから許可貰ったぞ。みんなで少しずつ食べたら良いよ」



「あっありがとうソラ~ッ! みんな~っ! グランルータの蜜よ~っ!!」



「「「グランルータの蜜っ!?」」」



「うわっ!?」



 花畑を飛び回っていた周りのピクシード族たちがグランルータの蜜を食べられると聞いて、こちらに向かって一斉に飛んでくる。



「あっは~久しぶりのこの味っ!」



「やっぱりグランルータの蜜は最高ねっ!」



「独り占めしないで皆に分けてくれるなんて、やっぱりソラは良い人だわっ!」



「あはは……喜んでもらえて嬉しいよ」



 俺の手の上にある木の実のカップに群がるピクシード族の女の子たち。

正直、スズメバチの大群に襲われてるみたいでだいぶ恐怖を感じた。


 


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