14話 黒くて速くて悪いヤツ
「……うん、やっぱり活動可能時間がまったく減ってない」
地下1階層に来て小一時間ほどが経過した頃、俺は自分のライザーカードに表示されている活動可能時間のカウントダウン表示を確認する。
ユグドラセンターに入った時の残り時間が3時間。で、今のカウントタイムも【03:00:00】のまま、1分も減っていない。
「そしてこっちの謎カウントアップは動いてる、と」
本来であれば、ライザーカードに表示されるのは活動可能時間がカウントされるタイマーだけのはずだが、この地下階層に来ると何故か【00:00:00】でスタートするカウントアップのタイマーが併記され、こちらは今【00:58:02】の値を刻んでおり、その時間は今も更新され続けている。
「今日はバイトも無いし、このカウントアップが上限突破するまで活動してみようかな」
ユグドラタワー内で活動可能時間を迎えてしまうと、モンスターにやられた時のようにタワーの外に強制転移させられてしまう。
瀕死状態になったわけではないが、活動時間オーバーなのでその日はもう再入場が出来ず、更にペナルティとして次回の活動可能時間が30分ほど減らされてしまうというシステムになっている。
とはいえ次回ちゃんと時間内にタワーを出ればペナルティは解消されるので、今回はペナルティを受ける覚悟でライザー活動の限界突破検証をやってみよう。
「まあ、その前にこのフロアで3時間生き残れたらの話なんだけどね」
パモチの言う『悪いヤツ』がめちゃめちゃ強かったら、活動時間とか関係なく普通にモンスターにやられて本日のライザー活動が強制終了するかもしれないし。
「さあソラチ! もう少しで悪いヤツの活動エリアを抜けるわよっ! もうちょっとだけ抜き足差し足でお願いねっ!」
「俺が抜き足差し足でこっそり移動しても君のそのハイパーボイスで何もかもが無に帰してるんだけど……あとソラチって呼ぶのやめてくれる?」
そんな感じで銀魂の作者みたいな呼ばれ方をされつつ、パモチの案内で地下1階層の森林地帯を歩いていた時だった。
ガサガサ、ガサッ
「……ん?」
横の茂みからガサゴソと落ち葉を踏みしめるような音が近づいてくる。
「もしかしてあれかな? ハクビシンとかタヌキとかアライグマとか……」
ガサガサガサガサッ!!
「イタチ……と、か……?」
なんとなく田舎とかに出て来そうな獣の出現を予想していた俺の前に現れたのは、野良猫ほどの大きさのまっ黒な……ゴキブリだった。
「でたああああああああああああああああああああっ!!!!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
いきなり現れた巨大ゴキブリといきなり叫び出したパモチの声にパニックになってこっちも叫んでしまう。
「ギギギギギィ!」
「な、なんだあのでっかいゴキブリっ!?」
「あ、あれが〝悪いヤツ〟だよソラッ! 倒して倒して~っ!」
大きさ的には地上の第1階層で戦っていたスライムとほとんど変わらない。
しかし、通常のゴキブリと比較すると異常なサイズだ。
なんというか、人間としての潜在的な恐怖のようなものを感じる。
「と、とりあえずモンスター鑑定を……っ!」
巨大ゴキブリはいきなり襲ってくるということはなく、急に出くわしてしまったこちらの様子を伺っている。
その隙にライザーカードを取り出して、カード越しに巨大ゴキブリを視界に入れる。
すると、カードに相手の情報が表示される。
【ブラックジェットローチ】
・生息地:地下1階層
・ドロップ:赤の魔石、黒鉄甲
「うわあ、やっぱゴキブリだ……!」
ジェットローチ……ジェット? なんかめっちゃ素早そうだな。
でもドロップアイテムに魔石以外の素材があるみたいだ。出来れば倒して素材をゲットしたいな。
「さあソラッ! 昨日渡した魔装の力も良い感じに馴染んできたんじゃないかなっ? ここらで1発、決めてみようっ!」
「な、なんか会話がチュートリアルくさいんだよなあこの子……」
「ギギギギィ……!」
まあでも、まずはここでこいつを倒せないと、この地下1階層の攻略は進まないだろう。
「よっしゃ、魔装の力で流星のマックマンと化した俺の実力を見せてやるぜ!」
「流星のマックマンってなにっ?」