12話 ユグドラタワーの夜
「よーし、今日は本格的に地下階層を攻略するぞ」
流星のマックマンになってファーストフード店での深夜バイトを終えた翌日、俺は再びユグドラタワーの地下1階層行きのリフトに乗っていた。
「昨日……というか今朝はあんまり寝れなかったけど、不思議と疲れはしっかり取れてる気がするな」
深夜バイトから帰宅して午前中は爆睡、午後からユグドラタワーでライザー活動、それが終わったら少し仮眠してまたバイト……というような生活ルーティーンを続けている俺だが、今日は新しく行けるようになった地下階層の探索が楽しみすぎたせいで修学旅行前の学生並みに寝ることが出来なかった。
でも起きてから疲れや眠気が残ってて身体がだるいとかいうこともなく、元気いっぱい。
「寝不足で一時的にハイになってるだけなのか、この魔装のお陰で休息効率が上がってるのか……まあその辺は別にいいや」
今が元気なら、それでOKです。
「そういえば、あのあと郷原くんはどうなったんだろう」
ユグドラタワーに入るときに鉢合わせたら嫌だなー……と思って少しビクビクしながら来たんだけど、郷原くんの姿は確認できなかった。
まあ、彼はいつも夕方から活動を始めるから、会う可能性があるのは昨日みたいに俺がタワーを出る時なんだけど。
もしかしたら昨日ぶん投げたせいで怒ってて、タワー前で待ち伏せとかされてたらって考えてたんだけど特にそういうこともなかった。
「夜の方がフロアに出現するモンスターが強くなるって聞いたことがあるけど、本当なのかな」
ユグドラタワー自体には門限的なシステムは存在せず、1日中どの時間帯で入っても攻略を進めることが可能で、それに合わせてライザー活動をサポートするユグドラセンターの営業も24時間稼働となっている。
しかし、夜間に出現するモンスターは日中に出現するモンスターよりも凶暴で強くなっているらしい。
その分良いアイテムをドロップするなんてことも聞くけど、そのせいで夜間のユグドラタワーへの入場には制限がかけられている。
「22時から5時までは、自分のフロアランク-10階層までだっけ……逆深夜料金だな」
ユグドラタワー内での戦闘はゲームのようなもので、モンスターに襲われて怪我をしても、タワーの外に出たらまるで最初からなにも無かったかのように怪我が治ってしまう。
しかし、タワーに出入りできるのは基本的に1日1回。
どういうシステムかは不明だが、1度入って外に出た後にライザーカードがロックされてしまい、その日はタワーに入り直して攻略するということが出来なくなってしまうのだ。
そしてもうひとつのシステムというか、タワー内でのルールは、フロア探索中に瀕死状態になった場合は強制転移が発動し、タワーの外に追い出されてしまうということ。
つまり、タワー内でモンスターにやられて1度ゲームオーバーになると、その日の活動は終了というわけだ。
まあ、本当に死んでしまわないだけマシだろう。
「最初の頃は全然モンスターに勝てなくて、活動時間1日10分とかだったもんなあ」
唯一本当に死ぬ危険があるフロアボス戦を除けば、ライザー活動というのは意外と安全なのである。
このシステムを踏まえた上で、どうして夜間のユグドラタワーに入場制限があるかというと、一時期レアドロップ狙いで夜に活動するライザーが多かったんだけど、出現するモンスターが強すぎて負けまくり、昔の俺みたいに探索開始10分でその日の活動が終わってしまう人が続出し、中々タワーの攻略が進まず、魔石の供給も減少してしまったという経緯があるらしい。
「仮にフロアランク10の人が夜に第10階層を探索してたら、ランク20相当の強さのモンスターが襲ってくるって考えたら……そりゃあ勝てないよね」
まあ、フロアランク1の俺はそんな制限関係ないんだけどね。
なにせ-10したら入れる階層がいっこもないんだから。
「いやでも、地下階層はどうなんだろう……?」
夜のユグドラタワーの各フロアには、立ち入り制限の為にフロアランクを確認する為のライザーが常駐しているらしいけど、地下階層は俺しか知らない、というか入れないからそんなのいないもんな……今度、ちょっと夜にも来てみようかな
「まあ、何はともあれ今日は普通に攻略だ」
気合いを入れ直したところでタイミング良くリフトの扉が開き、俺は再び地下1階層へと足を踏み入れた。