11話 魔装の力
「す、すごい……! 今ならいくら注文が来ても大丈夫そうだ」
ファーストフード店のキッチン上部に設置された注文モニターを確認し、表示された料理をひたすら作っていく。
休日のピーク時なんかはこんな感じで注文が無限に表示されて、捌いても捌いても次々と表示される地獄のモニターと化すのは平常運転だ。
まあ、それを避ける為に俺は深夜帯シフトで入ることが多いんだけど。
そんな感じで基本的には平和な深夜帯シフトでも、夜中に飯テロでも計画しているのかのような大量注文が入って忙しくなることがある。
それが今さっき発生したんだけど、俺はいつものように慌てることなくスムーズに注文を処理することが出来た。
「なんだか俺だけ1.5倍速で作業しているみたいだぞ」
深夜で従業員が少ない中、的確に注文を捌いてモニター操作、調理、材料の補充をこなしていく。
今までだったら忙しさで自分が頭で考えてやろうとしている事に手足の動きが間に合っていないような状態になっていたと思う。
しかし今日は、郷原くんの襲撃に対処したときのように視界も脳みそも冴えに冴えて身体も思うように動かせる。
「これってやっぱり、魔装の力なのかな」
昨日までの俺と変わったことといえば、ユグドラタワーを攻略して地下1階層のフロアキーを手に入れ、そこでピクシード族のパモチから貰った指輪型の魔装『NULL』を装着しているということ。
フロアキーを手に入れたり別の階層に行けるようになっただけで能力が上がるとは思えないから、おそらくこの魔装の効果なのだろう。
「魔装が俺の身体に馴染んできて、身体能力を底上げしてくれているってことか……?」
ユグドラタワーでライザーとして活躍するには、やはりモンスターを討伐する戦闘能力というものが1番大切だ。あと運。
しかし、どっちも持っていない万年フロアランク1の初級ライザーの俺が、唯一『普通の人よりちょっと優れてるかなー?』と感じている能力がある。
それは『動体視力』だ。
動体視力っていうのは、動いている物体を視線を外さずに持続して識別する能力のことで、物陰からいきなり飛び出してきたモンスターを素早く視認する能力と、こちらに向かって走って来るモンスターとの距離を正確に把握する能力の2種類がある。
この動体視力に関しては結構高いんじゃないかという自負があるんだけど、その高い動体視力に見合うだけの身体能力が無いため、敵の攻撃が見えてもうまく避けたりガードしたりが間に合わないし、逃げても追いつかれる。
あ、ちなみにここでいう敵っていうのは主に郷原くんのことね。
「まあ、こんなファーストフードのバイトで実感するのも微妙なんだけど」
郷原くんに殴られかけたときや、急ぎの注文を捌くときに集中すると周囲の動きがゆっくりに感じるというのは、脳の判断能力も上がっているということだろうか。
そしてその素早い判断にちゃんと身体が遅れることなく付いてくる。
遅れることなく付いてきて……めちゃめちゃ素早くハンバーガーを包装できるようになった。
「時給、50円くらい上がるかもな」
いつもより無駄に俊敏に作業する俺に対して、一緒にシフトに入ってるレジ担当の人が驚き半分、怪訝半分でキッチン内を奔走する俺を見ていた。
明日から俺の店でのあだ名が『流星のマックマン』になってるかもしれない。
「ふう、注文も捌けてしばらくはまた暇そうだし、フライヤーの油交換でもしちゃおうかな……」
「和取くんさあ」
「あっはい、なんですか?」
「ダッシュできるキノコでも食べた?」
ロック〇ンじゃなくてマリ〇カートの方だった。