六、
『美智瑠ちゃん、こんにちは。舞踏研究会に興味を持ってくれてありがとう。舞踏研究会は、インカレって言って他校の学生さんも混じって活動をしてるんだ。競技ダンスには大まかに分けてモダンとラテンの二種類があるんだけど、大会で踊るなら私はモダンが良いかなあ。モダンはお姫様みたいなドレスを着て優雅に踊るんだけど、ラテンは露出度の高いドレスを着て熱烈に踊るから私にはムリかも……でも、ラテンは本当に格好良いんだよ！ ラテンの先輩達のダンスはいつ見ても痺れる。今度ワルツのステップ教えるから一緒に踊ろうよ！ ティアラは永遠の愛され女子だよね！ ティアラの謎ケーキは、公式ホームページにレシピが載ってるよね。材料を全部そろえるのが大変そうだし、味は期待しちゃダメな色物だけど、一生に一度は作ってみたいし食べてみたい！ 来年は一緒にティアラのお誕生日をお祝いしたいね！ 追伸。美智瑠ちゃんのことすごく心配だよ。出過ぎたことかもしれないけど、私にできることがあれば何でも言ってね。美智瑠ちゃんの力になりたいよ』
『愛美ちゃん、こんにちは。愛美ちゃんのおかげで、競技ダンスに興味出てきたよ！ モダンとラテンで大まかに分かれてるなんて全然知らなかったから知れて良かったよ。すごく面白そうだね！ 私も間近でラテンのダンスを見てみたいな。今度、ぜひワルツのステップを教えてね。謎ケーキはまず見た目がすごいよね……あと、匂いもヤバそう……でも、ティアラ姫推しの私としては作って食べることにチャレンジしたい！ 来年のティアラ姫の誕生日はぜひ一緒にお祝いしよう！ 心配してくれて本当にありがとう！ お騒がせして本当にごめんね！ お酒もありがとう！ 酒缶四本分のお金は今度、交換日記渡す時に支払うね。あの時、愛美ちゃんのおかげで、手に負えなかった私の父が大人しくなりました。助けてくれた愛美ちゃんには頭が上がりません。感謝し通しです。ありがとう！ 私も愛美ちゃんの力になりたいです。何かあったらいつでも言ってね』
『美智瑠ちゃん、こんにちは。競技ダンスはね、すっごく面白いよ！ 今、一緒に踊るパートナーの男の子を先輩たちに探してもらってる最中なんだ！ 今月中までには決定するみたいだから、どんな人がパートナーになるのか今からめちゃくちゃ楽しみにしてる！ 謎ケーキは材料からしてヤバいもんね……チョコソースの代わりにウスターソース、イチゴの代わりにアボカドが丸々入ってるケーキなんて他にはないし絶対誰も考えないよね……でも、そんなケーキを大真面目に考えて作っちゃうティアラが尊い！ もし良ければ来年のティアラの誕生日に、私の家で一緒に謎ケーキ作らない？ 私の親と兄が家にいない時じゃないと、そんな冒険はできないけど……あ！ それで何だけど今度、直近でお互い都合の良い日に外で会えないかな？ ファミレスでご飯でもどう？ 私は美智瑠ちゃんのことがすごく心配だよ！ そんな、頭下げなくて良いよ。私はただ冷蔵庫から缶チューハイを取って来て美智瑠ちゃんに手渡しただけだから、お金のこととか本当に気にしないで！ でも、少しでもお役に立てたのなら良かった！ これからお互い困ったことやツラいことがあったら、相談し合ったり助け合ったりしようね！』
『愛美ちゃん、こんにちは。競技ダンスのパートナーって、何かロマンチックだね。密着して踊っているうちに、二人の間に愛が芽生えそう(笑) 良い人がパートナーになるとイイね！ ぜひぜひ！ 材料を持ち寄って、謎ケーキ一緒に来年作ってみたいなあ。あと、愛美ちゃんとファミレスでご飯も行きたい！ 直近だと私は、今月の十六日と二十三日が空いてるよ！ ドリンクバー頼んで元とって、たくさんお話したいね。愛美ちゃんにはお兄さんがいるんだね！ 私は一人っ子だから兄弟がいるの羨ましいなあ。いやいや、そういう訳にはいかないよ。ちゃんとお酒代は支払うから受け取ってね！ 役に立つどころじゃなかったよ。愛美ちゃんは私の命の恩人だよ！ 本当に感謝してます！ ありがとう！ うん、お互い助け合いの精神でこれからも何卒よろしくお願いします！』
『美智瑠ちゃん、こんにちは。競技ダンスは、パートナーと恋愛して結婚する人も多いみたいだよ。あ、でも私は、そんな不純な目的で入会したんじゃなくてただ単に勧誘された時に、先輩達のドレス姿が可愛かったからなんだ！……って、この理由も不純かも！？(笑) ありがとう！ 来年、美智瑠ちゃんとティアラの誕生日会するの楽しみにしてるね。それじゃあ、十六日の日曜日の十一時に美智瑠ちゃんちの前で待ち合わせするのはどうかな？ 日本は高齢社会で少子化だから最近、一人っ子の人が年々増えているみたいだよね。命の恩人だなんて、そんな大袈裟だよ！ 本当に助け合いの精神で動いただけだから、どうか気にしないで！ お酒代も手渡してくれて、わざわざありがとう！ あと、交換日記する意味なくなっちゃうかもしれないけど、スマホの連絡先を交換したいな。私のメアドと電話番号はこれだよ！ 気軽に連絡してほしいな。』
美智瑠は、何度も繰り返し繰り返し読み込んだ交換日記のページを優しく閉じた。
今時、連絡方法がアナログなのは何かと不便だ。交換日記から文明の利器であるスマホを使うことになるのは自然の流れだろう。
美智瑠は交換日記を引き出しの奥に大切にしまった。
