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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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エンリスとの戦い

飛びかかるエンリスの牙を刃でブロックしようと斬撃を繰り出すベノス。


牙が刃にぶつかる寸前、ただの剣ではないことを察知したエンリスは噛みつきをやめ開けた口から炎を吐いた。

「ぐっ!!」

炎はマントで防いだものの、流石に距離が近すぎ高熱がベノスの腕や身体を焼いた。


後ろへ退き距離をとる両者。


「只ノ装備デハナイナ。小賢シイ」

唸りながら身を低くして臨戦体勢のエンリス。


ベノスも剣を構え直す。

ドラグガルドのマントは仄かに光を発しはじめるとベノスの火傷の痛みが少しずつ和らいでいく。


「ベノス!」

「大丈夫だエルトロ」

心配するエルトロをチラリと見るや、エンリスに向かって一気に踏み込むベノス。


エンリスの放った炎がまたもベノスを包む。

しかしベノスが鋭く剣を振るうと炎はまるで物体のようにきれいに両断されて消し飛び、口を開いたエンリスの姿が露わになった。


まるで閃光のようなベノスの斬撃がいくつもエンリスに降り注ぐ。


「グゴアァァアッ!!」

エンリスは血飛沫をあげながら後退。と同時にベノスの足元にゴロリと転がる何か。

エンリスの左前脚だった。


「おぉ…以前俺とやり合った時よりも格段に技のキレが増してる!あの癖の強い魔法剣をあそこまで使いこなせるとは…」

ベノスがザンデロスから譲り受けた剣は、ドラグガルドでは最強の魔法武器のひとつである。

ただその高すぎる力ゆえに振るう者を選び、使いこなせるのはザンデロスをはじめとした限られた者だけだった。それを知っていたエルトロはベノスが今や身体の一部のように使いこなしているのを見て驚きを隠せなかった。


「…もういいだろうエンリス。これ以上無駄な血を流す必要はない」

エンリスを諭しながらも剣の構えを崩さないベノス。


脚を切り落とされた痛みに耐えるエンリス。左の前脚だけではない。首、そして頬にも深い傷を負っている。どうやら頬への一撃は口の中にまで達していたようで口からも大量の血が溢れボトボトと垂れはじめる。さらに血のせいで炎のブレスは消えしまい口からはもうもうとドス黒い煙が漏れている。


「オ、ノ、レ……!!」

エンリスの逆立った毛並みから弾ける魔力の電撃は激しさを増し、周囲に走った電撃が地表や岩が砕き散らす。


「おわぁっ!こりゃヤバくねーかベノス!」

エルトロは翼で身を隠しつつ行方を見守る。

「いや手出し無用だエルトロ!止めろエンリス!」

パン!と電撃が爆ぜ閃光に、ベノスの目が僅かに眩んだ一瞬。

電撃をまとったエンリスがベノスに向かって突撃。


光の砲弾と化したエンリスの強烈な体当たりに数メートル吹っ飛ぶベノス。


「ぐっ…!」

ドラグガルドのマントのお陰で衝撃は大幅に軽減されているものの、防ぎきれなかった衝撃はベノスに充分なダメージを与えたようだった。

しかもマントの一部は焼けこげ綻んでいる。

ブラックドラゴンの牙やブレス、メレラに操られた城の者達の魔法も通じなかったマントを裂くほどの強烈な突攻。二撃目はさすがに危険だな、と思いつつベノスはなんとか身を起こしながら剣を構え直す。


「ベノ…!」

思わず近寄ろうとするエルトロを手をあげ制止するベノス。


「そんな大技があったとは。お前も、何が何でも引かないみたいだな」

ベノスは仕方ない奴だな、という顔つきで剣のきっ先をエンリスに向ける。


「オレモ…アフモ…30年前、村ニ辿リツクマデ集団ニ属シ、仲間ノ為チカラヲ尽クシタ。ダガ結果ハイツモコウダ。身勝手ナ連中ニ使イステラレル。マタソウナルナラバ…ココデ死ンダホウガマシダッ!!」

傷だらけで心情を吐露したエンリスの身体からまたも凄まじい電撃が放たれる。

電光は激しさを増し、再度突撃のタイミングを伺う。


周囲が電撃で爆ぜる中、ベノスもエンリスから視線を外さない。



ボンッ!と地表が弾けた次の瞬間。


突撃を仕掛けるエンリス。


だがベノスはジャンプでかわしつつ、エンリスの背に渾身の一太刀を浴びせた。


正に瞬きの間の、ほんの一瞬の出来事だった。


決定的な一撃を浴び、エンリスは地表を滑りながら倒れた。


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