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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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魔犬を追って

━━ベノスの連れ去り未遂から2日後。


「えぇー?!マジかよ!」

ヘキオンズコープスの焼け落ちたベースハウス跡のそばの仮設テントの中で、エルトロは魔法の“遠話”用の鏡に向かって驚きの声を上げた。


「準備が出来たらすぐにあんたの魔力波動を探してそっちに向かうっておっしゃってたから、たぶん明日か明後日…早ければ今日にでも到着されると思うわよ」

鏡を使ってエルトロと会話しているのは、ドラグガルドの監視塔で監視の任に就いていたあのふくよかな女性だった。


「こんなに心強い助っ人は他にいないって!いやぁよかった!ありがとよ〜!」

そう言って遠話を終了するとエルトロは仮設テントを出た。


「おや、終わったようだな」

「大きな声が聞こえたが何かあったのか?」

外で待機していたロンボルトとベノスは、エルトロに声をかけた。


「ベノス、モナルカ討伐に向かう件、上手くいきそうだ。ドラグガルドから強力な助っ人が来てくれることになったぞ!」

エルトロはモナルカと決着をつけたいというベノスの決心を聞きドラグガルド本国に助力を乞うたところ、それを聞き入れてもらえたようだった。


「本当か!?ドラグガルドからの助っ人なんて、これ以上心強いことはない。ありがとうエルトロ。本当に感謝する」

ベノスはそういうとエルトロの手を握り感謝の意を伝えた。


「ははは、ベノスを死なせるわけにゃいかねーし俺もまだ死にたかないからね。それはそうと、どうだった?エンリスの毛は」

そう問いかけるエルトロに、ベノスは魔犬エンリスの抜けた毛を見せた。

「エンリスがいつも寝そべっていた診療所横の畑は延焼していなかったみたいで無事に残っていたよ」


「OK、じゃ始めよう。昼も過ぎちまって、さっさとしないと日がくれちまいそうだ」

エルトロはランタンのような器具を取り出し火をつけると、そこにエンリスの毛を焚べた。


燃えた毛から出た煙がランタンの上部に取り付けられた不思議な水晶のような球に吸い込まれていく。


しばらくすると、球は一筋の光が発した。

光は遠く東の方角へと伸びている。


「よし、光が消える前に指してる方角に向かおう。準備はいいよなベノス?」

その言葉にベノスが頷くと、エルトロは竜に変身しベノスを背に乗せた。


「先生、それにエンリスを連れてすぐ戻る!」

ベノスが背の上からロンボルトにそう告げると、エルトロは急上昇し全速で飛翔していった。


「…すごいな、もう見えなくなったぞ」

ドラゴンの力にあらためて驚くロンボルトであった。



━━ランタンから伸びる光の筋を辿るベノスとエルトロ。


「見る限りそう遠くないみたいだな!」

「ああ、光はあの切り立った山岳の中を指している」

ものの数十分でハーズメリア国境を越え東の隣国イスタンドの険しい岩壁が連なる山岳地帯の上空まで入った。


「光があの岩壁の穴を指しているぞ!」

「よし、降りるか」

高い岩山の中腹あたりに洞窟のような穴があった。

穴の前の荒涼とした平地に舞い降りた2人。


洞窟の奥を指すランタンの光を見て

「ここか…」

と呟くベノス。

だがエルトロは何かに気付きベノスに注意を促した。


「マントで身を隠せ!」


次の瞬間、洞窟から凄まじい業火が放出された。


「あっっちぃ!無事かベノス?」

瞬時に防御結界を張って炎を防いだエルトロは翼でベノスを守りつつ声をかける。


「ありがとう、なんともないが…これは、エンリスか?」


洞窟の奥の暗がりに、ギラリと光る鋭い眼光。

炎を放出しつつエンリスがゆっくり姿を現した。


「グルル…ドコノ竜カ知ラヌガ、死ニタクナクバ立チサレ!次ハサラニ強力ナ炎ヲ……ヌウ?!貴様、べのすカ?」

「ああ。一ヶ月ぶりくらいか?」

ベノスも前へ歩み出て自身の顔をしっかりと見せた。


「ナンダ、ソノ竜ハ?」

警戒を一切緩めることなくベノスに問いかけるエンリス。

「友人だ。敵じゃない。アフ先生は無事か?さっさと村へ帰るぞ」


その言葉と共にエンリスの形相は怒りに満ち、牙を剥き出して激しく吠えたてた。

「人間共ノセイデ、あふハイマ死ニカケテイルノダ!!2度ト戻ルモノカ!!」


「バカ言え、こんなとこで何の治療もしないままでいたら本当に死んでしまうぞ。村にはザンデロスが持たせてくれたドラグガルド製の治療薬が沢山あるし、ここにいるエルトロは高度な治癒魔法がつかえる。手遅れになる前に戻るんだ!」

ベノスの物怖じしない振る舞いと物言いはエンリスの感情を逆撫でした。


「コノ俺ニ!命令スルナ!!人間ノ餓鬼メガ!!」

エンリスの口からは炎が漏れ出て、背中の逆立った毛並みからはバチバチと魔力がスパークしている。

「…何を言っても無駄か」

ため息をつくベノスに、エンリスは更に大きく咆哮し威嚇する。


その姿にエルトロは何か珍しいものでも見たかのような口ぶりで言う。

「ひょぇ〜今にも飛びかかってきそう…ってオイ?!ベノス?」

エルトロが驚いたのは、なんとドラグガルドの魔法剣を手にエンリスの前へと歩み出すベノスの姿だった。


「おいおい、連れて帰るんじゃないのかよこのヘルハウンド」

エルトロの言葉に薄く笑みを浮かべつつ答えるベノス。

「ああ、出来れば穏便に連れて帰るつもりだったが、言う事を大人しく聞けるような状態じゃなさそうなんでな。いい機会だから一度叩きのめす。エルトロ、悪いが少し待っててくれ」


「小僧!!喰イ殺シテヤル!!」

激怒したエンリスは、大口を開けベノスに飛びかかってきた。


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