モナルカの計画
ハーズメリア王都のはるか西部に位置するモナルカが拠点とする古い廃城。
朽ちかけた外観とは裏腹に内部は美しく修繕され、当主たるディアボリカの居室は特にこだわった調度品で飾られている。
「メキシオとスラドル、虎の子のラランとギギまで投入して失敗するってどういうことか説明しなさい!!」
ディアボリカの怒声が部屋に響く。
「わ、我々としても想定外の出来事でして…何とぞ怒りをお収め下さい、お嬢様」
貴族然とした身なりの小柄な老人はディアボリカの前で跪き、冷や汗をかきながら弁解する。
「おさまるわけないでしょう!!」
老人の隣にいる12〜13歳くらいの美しい顔立ちの少年が怒りを露わにするディアボリカを冷静になだめる。
「…落ち着きなよディアボリカ。今やベノスはドラグガルドの魔法武具に加えドラゴンの仲間までそばにいる。簡単に連れ去ることができる相手じゃない。そもそも彼は、僕らモナルカの行動や計画を阻んだり、障害になるようなヤツでもなんでもない。執着したって何の意味もないんだ。いい加減諦められないか?」
その言葉にさらに言葉を荒げるディアボリカ。
「いいことジュデア?!アンタらが躍起になってるハーズメリアを手中におさめる計画なんて、私の力なら数日あればできるのよ!「私の」欲しいものを手に入れ、やりたいことをするのが最優先事項!ナンバー2のアンタは黙って言うこと聞いてなさい!」
ディアボリカに苦言を呈したモナルカのナンバー2たる少年・ジュデアは、冷めた目つきでディアボリカを見つめる。
「モナルカの思いのままとなる国、そして民を手に入れることは僕らの悲願。それを捨て置いてまで…」
「あー!!もういいもういい!アンタらをアテにした私がバカだった!もう自分でやるから計画でもなんでも好きにやってなさい!」
ジュデアの言葉を遮って喚きちらしたディアボリカはジュデアの肩を突き飛ばしツカツカと早足で部屋を出ていった。
ジュデアの隣の老人はふぅ、と不始末の責を免れた安堵ともディアボリカに対する諦めともとれるため息をつき、ポツリと呟く。
「いやはや、お嬢様にも困ったものだ。この大事な時に」
ジュデアは老人をねぎらうように声をかける。
「オルディー、この件に関しては僕らも充分な手をうっていた。彼らが予想より上の立ち回りをした、それだけのことだ」
「しかしギギを失ったのは確かに痛い。モナルカ屈指の魔造生物であるとはいえ、ドラグガルドの竜はさすがに相手が悪かったか」
先日ベノスが拉致されそうになった際に現れた白髪の2人組の内の女・ギギがエルトロに倒されたことをオルディーは苦々しい顔で話した。
「僕らもラランとギギの強さを過信していた。あれなら竜ぐらいならどうにでもなると思っていたが甘かった。対“復讐者”用に作った自信作だったんだけどな」
ジュデアも魔力で生み出された人造生物の敗北に残念そうな態度を示した。
「“復讐者”といえば、モナルカの従属者・ラナイエ伯爵とその一派がついに復讐者の手にかかってしまったようだぞ」
オルディーは深刻な表情で仲間であろう者の敗北をジュデアに告げるものの、
「復讐者を恐れるあまり組織への忠誠も捨て魔界にまで逃げていたやつらなんてどうでもいいさ。ただ復讐者が現世界に戻ってきているかもしれないからそこは用心しないとな」
とジュデアは表情も変えず返した。
「それにしても、どうするジュデアよ。お嬢様があの様子では計画に支障は…」
「支障など全くないよ。別に彼女が集めた駒だろうが僕がコントロールするから問題ない。これまで通り進める」
オルディーの心配をよそに、ジュデアはモナルカの“計画”に滞りはないと考えているようだった。
「それにしても、ディアボリカに当主の務めは荷が重いようだ。いや…恐ろしく高い魔力以外、当主の資質も資格もはじめからなかったのかもね」
ジュデアはサイドテーブルに置かれたディアボリカの飲み残したグラスを見つめながら、何か思案する顔で静かに呟いた。




