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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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96/116

決意

夜もふけたヘキオン村。

ブラックドラゴンに家を焼かれ住まいを失った村の人々は、村の大広場に設置された粗末な仮設テントで寝起きしている。

ベノスらによってそこへ運び込まれていた負傷したタウザールは目を覚ました。


「…いてて…ここは?」

傍らで手当てをしていたティアミーが目覚めたタウザールに答える。

「大丈夫?村の仮設テントだよ。怪我して運び込まれたのよ、あんたとスリッグス」


横ではスリッグスがイビキをかいて寝ていた。

2人ともかなり深い傷を負わされていたが、エルトロの治癒魔法のおかげで出血はあるものの傷は7割がた塞がっている。

「ベノス達は?」

事情をきちんと説明してもらっていないティアミーは不服そうに

「あの新しくきた男の人とロンと一緒になんか話してるよ。ていうかさぁ、何があったの?」

とベノスたちの方を指さした。


広場に建ち並ぶ仮設テントから少し離れたところで立ち話をするベノス達。

「…みんなに迷惑をかけてしまった。申し訳ない」


「謝ることはない。君が無事で本当によかった」

ロンボルトは笑顔でベノスに答える。


エルトロもいつものニヤけた表情とはうってかわった真剣な顔つきで

「こっちこそ油断しちまって悪かった。彼らがまさかモナルカの一員だとは思いもしなかった」

と、自身の感知能力で事前に察知出来なかったことにわずかに悔しさをにじませた。


そして、親友であったメキシオとスラドルの2人がすでにディアボリカに魅入られてしまっていたという事実。それはベノスに“ある決断”をさせるには充分な出来事であった。


「…決着をつけに行かざるを得ない。モナルカどもとな」


突然のベノスの決意にロンボルトは驚き

「いや、待てベノス。冷静になれ。いくら強力な魔法の剣やエルトロの助力があるとはいえ、向こうの力は未知だ。さっきの奴らより更に強い者がいたらどうする?そもそもディアボリカという女がまずメレラに匹敵するバケモノなんだろう?」

と慌ててベノスを窘める。


「しかしこのままではずっと狙われ続ける。俺だけならともかく村やみんなをこれ以上巻き込む訳にはいかん」

覚悟を決めたかの様にベノスは落ち着いた口調でロンボルトに返す。


「…このままじゃ埒があかねーって気持ちは痛いほどわかる。が…、さすがに俺たち2人だけで奴らとやり合うのはじゃあ自殺行為ってもんだ」

エルトロの言葉に押し黙るベノス。


「なんとかならねーかドラグガルドに連絡してみる。少し時間をくれ」

ベノスは何か対策を講じようというエルトロにわずかに表情を明るくした。

それにさらに付け加える。

「世話をかけてすまんエルトロ。ついでにもう一つ、手を貸してもらいたい。早急に人探しをしたいんだ」


「人を探す?お易い御用だが、誰を?」

エルトロはベノスの要望に何気なく問う。


「ヘキオン村に住んでいたヘルハウンドだ。村にとって大事な人を連れ去っていった。その人とそのヘルハウンドを連れ戻す」


ベノスの言葉に驚くエルトロ。

「ヘルハウンド?!地獄の番犬って言われるようなモンスターがなんでこんなとこに住んでんだ?!」


「さぁ…そういえば詳しく知らないな。先生とエンリスはいつから村に?」

ベノスの疑問にロンボルトは

「いや俺も詳しくは。ただ俺が産まれる前から村にいた事は間違いないが」

と答えた。



━━ハーズメリア領内西部。

何らかの理由で人々が去った無人の廃村を見おろすように、かつての領主が住んでいた古城が建っている。


一見ひと気は無く廃墟のように見える古城だが、薄暗い城内には高級そうな燭台がならび美しい絨毯の敷かれた廊下を照らしている。


たくさんの調度品が飾られ住みやすく修繕された広い一室から、少女の怒声が響きわたる。

「たかが人間ひとり連れてくることすら出来ないって、どんだけ無能なのあんた達?!」


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