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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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闇への誘い

「…でさぁ〜、部屋に連れ込んだ王宮の給仕の女たちってばみんなベノスベノス。いい女は毎回全部ベノスが持ってっちまってよぉ」

「そうそう、スラドルは誰にも相手にされなくて不貞腐れて酔っ払って一人で寝ちまってたよなあ」

メキシオは笑ってスラドルをからかった。スラドルの拗ねた表情にベノスも笑みを浮かべる。


3人は暗い森の中の道をランプで照らしながら歩いている。

「そろそろ合流場所だぜベノス」

「お、そうか」

メキシオの言葉になんの疑いもなく返事をするベノス。


その時、3人の目の前に突如人影が舞い降り、行手を阻んだ。

キョトンとするベノス。警戒するメキシオとスラドル。


「ベノスを何処に連れてくつもりかな?お二人さん」

エルトロは目は全く笑っていない笑顔でメキシオとスラドルに問いかけた。

さらにメキシオら3人の後方に、ロンボルト・タウザール・スリッグスも姿を現した。


「はぁ〜…アンタらベノスのなんなの?“夕飯までには帰って来なさいよ〜”ってか?大人の男がツレと出かけるくれぇでバカじゃねぇの」

メキシオはヘラヘラと柄の悪い態度でエルトロに答える。

「いやぁ〜俺たちも心配なんてしないよ、キミタチが本当に“普通”の友人ならね」

エルトロの言葉に苛立ったのか、メキシオは語気を荒げ始め

「何を疑ってんのか知らねぇが、間違いなく俺らとベノスは騎士団を共に過ごし固い絆で結ばれた親友だ。昨日今日の付き合いのお前らなんざに一から十まで説明する筋合いはねぇよ。わかったらさっさとどきな。なぁベノス!」

と、敵意剥き出しでエルトロに凄み、ベノスに同意を求めた。

ベノスはまるで状況が飲み込めていない表情で

「おお、そうか。そうだな」

と返事をした。


「お、おいベノス、そりゃねーだろ!」

ベノスの返答につい食ってかかったタウザールにエルトロは、待て待て、というようなジェスチャーをした。

「いやどう見ても変でしょ、ベノスは何らかの術で完全に我を失ってるよ。術を解かなきゃずっとこの調子だ。だよなーベノス!」

大声で呼びかけたエルトロの声に

「ああ、そうだな!うん、そうだ!」

と、ベノスは間の抜けた返事をした。

それを聞いたタウザール達は確信を得たように無言で持った武器を構えた。


メキシオとスラドルは表情が変わった。

「…やめとけ。死にたかねーだろ」

メキシオは漆黒の不気味な剣を、スラドルは異様な形状の斧をそれぞれ腰から抜いた。構えられた武器から魔力が放散され始める。鞘に収まっている状態では全く感じ取れなかったがそれは魔法の武器だった。


「ああ、なるほどな。モナルカのお嬢様…ディアボリカちゃんだっけ?彼女から貰ったのかい?趣味の悪い武器だねーホント」

ニヤついた表情でお見通しだと言わんばかりの言葉を投げるエルトロに、スラドルが飛びかかった。


スラドルの振り下ろした斧を紙一重でかわすエルトロ。

斧が叩きつけられた地面は大きく裂け、さらに裂け目からどす黒い魔力が噴出した。


だがエルトロはその攻撃に全く動じることなくすぐさま反撃の魔法を放つ。

凄まじい衝撃波がスラドルを吹き飛ばし、スラドルは森の太い樹木に叩きつけられた。


それを見てエルトロの強さをすぐに察したメキシオは、ベノスの喉元に剣を突きつけた。

「おい!それ以上近づくんじゃねえ!さっさと道をあけろ!」

ベノスは何事だ?といった表情で微動だにせず周りを見回す。


「おいおい、親友にやることじゃないだろ」

そう言いながらエルトロは構わずメキシオに近づいていく。


「この野郎っ…!」追い詰められたメキシオは、決死の様相でエルトロに飛びかかった。

だかエルトロはまるで飛んできた虫をあしらうように先程同様の衝撃魔法でメキシオを吹き飛ばした。

スラドルと同じく太い木の幹に叩きつけられ気を失った。


「お前の剣速より倍以上早いからな俺の魔法は」

そう言うとエルトロはポカンとするベノスに近づき、まじまじとベノスの状態を確認した。

ロンボルトもベノスに近づいて声をかける。

「おいベノス、大丈夫かしっかりしろ」

呼びかけにも心ここにあらずなベノス。


「やはり、魔法を使われたわけではないな。薬か何かか。なら簡単に治せそうだ」

そう言うエルトロにタウザールは

「治せるのか?この状態」

と尋ねた。


「治せるには治せるんだが…かなり荒療治でね。みんな、ベノスを抑えててくれ。あと目を閉じてな」

「え?!この場でやるのか?村に連れて帰ってからでも…」そう言うロンボルトに、エルトロは打って変わって真剣な表情で3人に伝える。


「…嫌な魔力のニオイが濃くなってきてる。さっさとベノスにもとに戻ってもらわないと危険だ」

察した3人はすぐにベノスを押さえつけ、目を閉じる。

「お、おい何するんだ」

ベノスは突然のことに驚き振り解こうと暴れ出した。


エルトロは魔力を手のひらに集中しベノスに向ける。

「少し気を失うかもしれが、起きたら元通りだ、…多分」

そう言いおわると同時に、凄まじい光がベノスに向かって放たれた。

「うぉおっ!」

ベノスを押さえつけていたロンボルトたちも一緒に後方へ吹っ飛ばされ、皆たまらず声をあげた。


起き上がりながらタウザールは

「…こうなるなら先に言えよ!」

とエルトロに怒鳴る。


「いや〜悪い悪い、申し訳ない。異常解除魔法はあんまり慣れてなくて」

エルトロは吹っ飛ばされたみんなに走り寄る。


エルトロの言う通り、気を失ってしまったベノスにロンボルトは揺さぶって声をかける。

「大丈夫か?ベノス」


━━その時、メキシオ達が進もうとしていた道の先の空間が突如歪み、裂け始める。


「…来たか。みんな、ベノスを連れて少し離れるんだ」

3人はベノスを担ぎ、後方の木の陰に身を潜めた。

エルトロはひとり、裂け始めた空間を前に身構えつつ魔力を高める。いつでも竜形態になれる状態だ。


メキメキと音をたて開いた裂け目から、白髪の若い男女2人が姿を現した。男は目を、女は口を呪印の描かれた黒い布で覆っている。


男女2人の後ろから更に数人の男達が裂け目から出てくる。みんな同じ鎧を着込んだ、メキシオ・スラドルと同じ“ハーズメリア戦士団”の者達のようだった。


「メキシオとスラドルを回収しろ」

白髪の男の命令に、すぐさま行動する戦士団達。

気を失ったメキシオ・スラドルを担ぎ上げ、戦士団がまた裂け目の中に入っていくと、裂け目はきれいに閉じていった。


「で、やっぱ目当てはベノスなワケ?」

エルトロの言葉に応ずる様子はなく、2人は一斉に襲いかかってきた。


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