表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/116

キアヒナの覚醒

「キアヒナ?!良かったぁ、意識がもどって…」

キアヒナは、崩壊した中央塔から少し離れた魔導師達の修練施設で数日間意識不明のまま治療を受けていた。

目覚めたキアヒナに声をかけるネネル。傍らには医術系の魔導士たち数人が様子を見守っている。


「寝てる場合じゃないよね?!状況は?!」

慌てて身体を起こしたキアヒナを落ち着かせるネネル。

「大丈夫ですキアヒナ。もう全部終わりました。メレラはザンデロスとドラグガルド下臣団の手で撃退され、戦いに参加したひとりの剣士がラブロウの巨人化を解除したそうです」


それを聞いたキアヒナは押し黙ると静かにうつむき、表情を曇らせる。

「…私、何もできなかった。メレラとの戦いにも加われず、ラブロウをもとに戻すことも出来ず…」


「何いってるんですか。キアヒナがいなきゃラブロウを異空間から救出できなかったですよ。それに、まだメレラとの戦いは終わってません」

ネネルは厳しい表情でキアヒナに告げる。

キアヒナもそれを聞いて困惑した。

「え?さっきメレラを撃退したって…」

「はい。メレラはザンデロスの攻撃を受け、半身を焼かれながら逃走したそうです。逃げた先もわかっていて、場所はアークノス=ジーク。恐らくそこでの戦いが最後になるはずだと、ザンデロスが先ほど“遠話”で話していました」

どうやらザンデロスはようやくソザリアと連絡がとれたようでこれまでの経緯と今後の動向をネネルに伝えていた。


「もしかしてラブロウとザンデロスはアークノス=ジークにすでに向かって…」

早合点するキアヒナにネネルは伝えきれていなかったことを伝える。

「実はラブロウが巨人化から解放された後も意識が戻らず、覚醒の唯一の手段は現世と幽世の“狭間の領域”でしか育たない反魂草を手に入れてラブロウに与えるしかないそうです。ザンデロスはこれからそこへ向かうと言っていました」


「ラブロウを何としてでも目覚めさせようとしてるのは、やはり“相剋”があるから?」

“聖者”でなければ“魔”を滅ぼすことができない、“聖者”は“人”の力でしか育てることができない、“人”は“魔”の力に抗うことができないという三すくみ。世界の理だ。

メレラに何度挑もうとも、相剋外の存在であるドラグガルドの者にはメレラを倒すことはできない。

最後は“聖者”たるラブロウに託すしかないのだ。


「ええ。メレラが力を取り戻す前に手を打たないといけません。ハーズメリアのような虐殺が再び起きる前に」

強い口調で話すネネル。


「…私も向かう。“狭間の領域”に」

キアヒナの突然の決意にネネルや周りの魔導士達は驚く。

「えぇ?目覚めたばかりの身体で…ムチャですよ!」


「みんなで傷の治療をしてくれてたんでしょう?ありがとう、もう痛みも疲れも一切ないわ」

そう言うキアヒナに、医術系魔導士のひとりは躊躇いながらもハッキリと答える。

「…はい、身体は万全の状態のハズです。我らの世界最高峰の治癒魔法と、回復の秘薬を惜しげもなく使用しましたから。ソザリアの宝である貴女を絶対に失うわけにはいかないので」


ふふ、と微笑むとキアヒナの身体を魔力が包む。


キアヒナは巨大な鳥、不死鳥のような姿に変化した。

「きゃあ!ちょっとキアヒナ?!」


翼を羽ばたかせると強い魔力が周囲に発散された。

驚く魔導士達。

「こ、こんな凄まじい魔力、感じたことがない…!」

不死鳥の中にいるキアヒナは両手を見つめたあと、ギュッと手を握りしめた。


「ああ、やっぱり。あの修練で私、凄くレベルアップしたみたい」

ラブロウを救うべく行なった“魔力殻装”の修練。これまで経験したことがない途轍もなく過酷なものだったが、それを経たことによってキアヒナの魔力は飛躍的に成長を遂げていたのだ。


「とりあえずドラグガルドに向かって、ザンデロスの後を追うわ。ネネル、ソザリアをお願いね!」

そう言うとキアヒナは凄まじい速さで飛び立っていった。



━━「クッソ…!やられた…!」

ヘキオン村から少し外れにある林の中で、脱ぎ捨てられた竜の紋章が入ったマントを発見したエルトロは険しい表情を浮かべる。

それは紛れもなく先程までベノスが身につけていたものだ。


そばにいるロンボルトが不安な面持ちでエルトロに声をかける。

「なぜここにベノスのマントが…」

マントを拾い上げようと手を伸ばしたロンボルトに、エルトロはハッとしてすぐさま注意をする。

「そいつに触っちゃダメだ!」

「え?」

エルトロの警告より先にロンボルトの指先がマントに触れた瞬間、小さな電撃が走る。

「ぐわっ!」

ロンボルトは驚いて尻餅をついた。


「そのマントは身につけていない状態の時は現時点の所有者以外触れられないようになってる。身につけている時も無理矢理引き剥がすような事はまず出来ない。つまりベノスは自らこのマントを脱いだんだ。気を許してなんの気なしに脱いでしまった所をつけ入られたのかも。コイツには炎だとか衝撃だけでなく、魔力による幻影・幻惑・束縛の類も無効化する力があるからな」


エルトロの推測にロンボルトは質問を重ねる。

「あの友人だという戦士団の二人か?」


「だろうね。でもあの二人からは毛ほども魔力を感じなかった。操られているのなら必ず痕跡があるがそれも一切なかった。一体どうやって…いや、ともかくベノスを早急に探そう。済まないが手を貸してほしい。ベノスの髪の毛や爪みたいな身体の一部だったものか、普段愛用していた衣服か小物があれば居場所を特定できる」

エルトロの要求に、ロンボルトもすぐに返答する。

「わかった。ベースハウスの地下に彼の装備をしまっている。すぐに向かおう」

そう言うと2人は足早にヘキオンズコープスのベースハウスへ戻って行った。


※アークノス=ジークに関しては、第74話をご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ