ベノスの旧友
ハーズメリア戦士団のメキシオは、焼け落ちた家屋の中で立ち尽くしこちらを見つめる1人の男とふと目があった。
「……??!う、うそだろ…?!まさか…」
メキシオは驚き表情を大きく歪ませる。
「あ?なんだ?」
スラドルはメキシオの視線の先を見る。
スラドルもそれに気づき、口をパクパクさせるだけで言葉が出てこない。
「べ、ベノス…か?!お前…?!」
メキシオはなんとか声を絞り出し、立ち尽くすベノスに訊ねた。
「…ああ。久しぶりだな、2人とも」
ベノスが静かに答えると、メキシオもスラドルも堰を切ったように声を上げてベノスに駆け寄って行く。
「うおぉ!マジかよぉお!ベノスお前えぇ!」
2人はベノスにしがみつき泣き出した。
「この野郎!道端で野垂れ死んじまったって聞いたぞ!生きてんじゃねぇかテメェ!」
スラドルの言葉に、ベノスも何とも言い難い感情が込み上げてくる。
「…ああ、色々あってな。何とか生きてるさ」
ロンボルト達は一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐに状況を察した。
エルトロも近づいて来た2人を排除しようと身構えていたが、泣いて再会を喜ぶ姿を見て警戒を解き、ベノスに声をかける。
「知り合いかい?このお二人さん」
「騎士団少年部にいた頃、いつも一緒にいた仲間だ。まさか騎士団を出て、戦士団に所属しているとは思いもよらなかったが」
ベノスは当時を懐かしむような笑顔でメキシオとスラドルを見た。
「いやはや、こんな偶然もあるんだなあ。戦士団に友人がいるのなら捕らえられるようなことは無かろう」
ロンボルトはホッと胸を撫で下ろす。
「おい、ちゃんと聞かせろよベノス。この1年以上、どこで何をしてたのか」
メキシオとスラドルは、泣き笑いの顔で強引にベノスを引っ張り連れ出そうとする。
ベノスは少し困惑するも、
「みんな、来たばかりですまないが少しだけ時間をくれ」
と申し訳なさそうに、だがどこか旧友との再会の喜びを抑えきれない表情でメキシオとスラドルと賑やかに会話しながら、ともにひと気のない場所に歩いていく。
「積もる話もあるだろう。気にせず3人で話してくるといい」とロンボルトは笑顔でベノスに声をかけて見送った。
「ははは、良かったじゃねぇか」
タウザールもベノスの素の姿になにやら安心した気分になった。
そこへ、スリッグスとティアミーが入れ違いで現れた。
「おう、ベースハウスの片付けはもうすんだのか?」
のん気に声をかけてきたスリッグスとは対照的に、ティアミーは目を輝かせながら辺りを見回す。
「ねぇねぇ!ベノス戻ったんでしょ?どこ?」
はやるティアミーにロンボルトは
「ああ、今しがた用事でここを離れた。またしばらくしたら戻って来るだろう」
と事情を説明するも、
「え〜、あのすっごい美人のこと聞きこうと思ってたのに〜」
と残念そうなティアミー。
「美人?ああ、“遠話”した時にチラッと映り込んだっていう…」
そう言うロンボルトにエルトロは
「あ、それ俺の姉上だ。中身はオニだよ」
と呟いた。それを聞いてロンボルトも聞き返す。
「オニ?ドラゴンじゃなくて?」
「ドラゴンだけどオニ」
「誰この人?」
ティアミーを交え取り留めもない話が続く中、エルトロはうっすらと何か妙な違和感を感じていた。
(…魔法や魔力の痕跡は特に誰からも感じないんだけど…なにか気になる…)
──魔法郷ソザリア。
巨人化したラブロウが異空間の穴をこじ開け出現したため、魔導士達の拠点たる中央塔は崩壊。
魔導士ネネルの結界術により負傷者こそいなかったものの、ソザリアは一時、大変な混乱に陥ってしまった。
何とか体制を立て直し、急ピッチで塔の復旧を進める中、ラブロウ救出の際、重症を負ったキアヒナがようやく意識を取り戻した。
「あれ…私…。?!…ラブロウは?!ラブロウはどうなったの?!」




