乱闘騒ぎ
行軍演習からすでに一週間が経過したが、ジロッサが所構わず自分の武勇伝のようにラブロウの活躍を話し回るため、王宮の宮仕えの者たちの間では、いまだラブロウの話題で持ちきりだ。
そして何より意外なことにジロッサ自身にも変化があった。これまで訓練に真剣に取り組むことのなかったジロッサだが行軍演習の一件以来、まるで師を敬う弟子の如くラブロウに付き従い、剣術や馬術をもっとうまくなりたいとラブロウに教えを乞いはじめたのだ。
一方ラブロウも座学以外の訓練で高成績を残していた。剣術や槍術などの訓練では、何度も挑みかかってくるメキシオやスラドルを持ち前の身軽さで容易くあしらう。
今やラブロウは訓練生たちの中心にいた。
そんな中、ベノスは不気味なほど静かだった。多少の身体の不調などものともせず常に積極的だった訓練にも行軍演習で足を痛めたことを理由に最近はほとんど見学をしていた。
そしてある日の剣術訓練。
これまで見学をしていたベノスがようやく参加することになった。そして訓練相手に指名したのがラブロウだった。
「いいけどよー…足大丈夫なんか?」
「いらぬお世話だ」
顔色変えず冷たく言い放つベノス。他の訓練生も2人の立ち合いが見たくて気もそぞろだ。
「みな集中せんか!…始めい!」
ゼラー教官の合図とともに訓練が開始。
「いっくぞぉ!」
ワクワクした表情で踏み込むラブロウ。
「…バカめ」
ラブロウの一太刀を難なくかわし足払い、体勢を崩したラブロウの胴に間髪入れず強烈な剣撃を打ち込んだ。
「いってぇ〜…」
「さっさと立て」
続く立ち合いもラブロウはまるで赤子扱いだった。ラブロウの身軽さからなる攻撃も回避も全て読みつくし次々強打を浴びせていく。
ベノスのここ数日の見学は、ラブロウの攻撃のクセをじっくり観察し徹底的に叩きのめすためのものだった。
(トリッキーな動きに惑わされてしまうがよく見ればどうということはない。こいつは剣のド素人だ)
「おいベノス!もういい、やめ!」
ゼラー教官の声に、ベノスはようやく打つのをやめた。
静まりかえる訓練場。
「ぐあ…いでで…」
「だ、大丈夫かラブロウ!?うわあ、ひどいなコレ…」
駆け寄ってきたピットーはその有り様に驚く。
訓練用の軽鎧は驚くほどボコボコにへこみ、額や口元には血がにじみ腕や足は所々青く腫れ上がっていた。
ラブロウは手も足も出ず一方的に打たれてしまいグロッキーな状態だった。…かに見えた。
満足して背を見せたベノスに、ラブロウは兜を投げつけた。
兜はベノスの頭にヒットし、前につんのめった。
「おー悪い、手がすべっちまった♪」
悪気しかない無邪気な笑みを浮かべた。
「コラァ!訓練は終わっているん…」
ゼラー教官の言葉が終わるより先にブチギレたベノスが飛びかかり全力の蹴りをラブロウに浴びせる。
「わあぁ!」
巻き添えをくらいラブロウと一緒に吹っ飛ぶピットー。
「うらぁっ!素手なら負けねーぞ!」
「この魔法ザルが!殺してやる!」
ベノスとラブロウの掴み合いの乱闘が始まり訓練はめちゃくちゃだ。
「やめんか!貴様らぁ!」
ゼラー教官はラブロウとベノスの顔面に拳を叩き込んだ。
「これが騎士を目指すもののとる行動か!
貴様らには謹慎を命じる!いいな!」
他の訓練生たちに力ずくで引き離されてなお、ベノスとラブロウは睨み合いを続けていた。