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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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それぞれの向かう場所

──焼け落ちたディメナード家の屋敷跡。

ベノスは兄マイザにハーズメリア王都での出来事を報告、ヘキオン村の復興が済めば必ずまた会いに来ると約束しその場を後にした。


青いドラゴンの背に乗り、ヘキオン村へ向かうべく空を翔けるベノス。


「随分と手短に済ませるんだなぁ」

という青いドラゴンの言葉に

「あまり長々話し込むとここに居ろと言い出しそうな雰囲気だったからな。こんなもんで充分さ。それにしても、本当によかったのかエルトロ?俺なんぞのお守りをすることになって」

とベノスは聞き返した。

「いやいや、これから王子やデズオン様は勇者を目覚めさせるためにドラグガルドに戻って、またメレラの討伐に向かうんだろ?それに比べたらなんてこたぁないさ。むしろベノスの護衛に選ばれてラッキーだった!」

とエルトロは声をはずませて答えた。


──昨日。

引き続きメレラとの戦いを続けるザンデロス達と別れ、ヘキオン村へ帰ることとなったベノス。

だが闇の魔力を持ち暗躍する者達・“モナルカ”につけ狙われるベノスの身を案じたザンデロスは下臣のひとりを護衛に付けること提案。


「エルトロはこの中じゃ一番、魔力を感知する能力に優れてる。それに竜形態をとらなくても腕がたつのはお前も知っての通り。不意打ちが常套手段の奴らの相手には適任だ」

とエルトロが指名した。


ベノスは自分などに付き合わせる訳には行かないと固辞したが、万が一、因縁あるモナルカに狙われていることを知りながら何の手も打たずベノスがモナルカに連れ去られたり、最悪、命を奪われてしまうなどという事態はドラグガルドの沽券にかかわるとザンデロスもデズオンも譲らなかった。

ドラグガルドの精鋭のひとりを自身の旅に同行することになり心強い半面、申し訳なさも感じながらザンデロスや下臣団と別れたベノス。

それ故に先ほどのエルトロの軽い反応は、幾分かベノスの気を楽にした。

それに竜形態のエルトロのスピードなら本来二週間以上かかるハーズメリア王都〜ヘキオン村への道のりを大幅に短縮できる。ベノスはそれが一番ありがたかった。


「あのモナルカの女、ハーズメリア王都のずっと西の山中にいるんだったっけ…もうずっとそこに居りゃいいのになぁ」と漏らすエルトロ。


数日前のディメナード邸付近でのディアボリカの襲撃。結局ザンデロスとドラグガルド下臣を相手に分が悪いと見るや遁走をはかった。だが転移先はドラグガルド下臣団が完全に把握しており、ベノスも居場所は伝え聞いている。


「…そうだな。だがあの執拗さ。大人しくしているとは思えん」

一抹の不安を抱えヘキオンへと向かう2人であった。



──ハーズメリア王都南部のラブロウ支援団の施設。


昨日まで空を覆っていた黒雲は消え、辺りには陽の光がさしていた。

融合したブラックドラゴンの群れはラブロウによって倒され、メレラもザンデロスによって瀕死の状態に追い込まれ逃げ去ったと知らない支援団の者達は晴れ渡る空を見上げ未だ警戒を緩めてはいなかった。


ラブロウ支援団で臨時王国府を動かすという話に、ピットー、ジロッサ他この施設にいる生き残ったメンバー十数人で夜通し話し合いが行われた。


結論から言うと支援団は今後、臨時王国府の中核となり動いていくこととなった。

しかし納得のいかない一部のメンバーは団を去る決意をする。レンデイラもそのひとりだった。


──眠い目をこすりながら外の見張りをするピットーとレンデイラ。


「…どうしても、一緒には来れないのかい?」

レンデイラを説得しようと試みるピットー


「さっきもいったけど、私にはそういうの向いてないって。誰かの下でお行儀よくなんて出来ないから冒険者じみた生き方してるんだから。アンタが一番知ってるじゃない」

レンデイラは軽く微笑みながらピットーに返した。


「…一緒に来てほしいんだ、君には」

強く訴えかけるピットー。

「べつに永遠の別れってワケじゃないんだから。またどこかのダンジョンを探索するなら、呼んでくれたらいつでも飛んでいくって!」

臨時王国府の活動が始まれば、きっとそんな機会はないと知りつつ明るく答えた。


相いれず別々の道を進むことを寂しく思う2人の間に静けさが漂う。

ピットーがふと遠くの空に目をやると、こちらに向かって飛来するものが目に入った。

「…あれは!?」

レンデイラも剣を握り身構える。

「ドラゴン!みんなに知らせなきゃ!」

慌てふためく2人を尻目に、青いドラゴンはそのままさらに南へと凄まじい速さで飛行して行った。


「はぁ〜…こちらに気づかなかったみたいだな。よかったぁ…」

ピットーがほっと胸を撫で下ろすと、レンデイラが一言呟いた。

「今のドラゴン、人が乗ってなかった?」

「えぇ?見間違いじゃない?」

笑って返すピットー。


すると扉がバンと開き、仲間のデルグが血相を変えてピットーを呼びにきた。

「ピッ、ピットー!ザンデロス王子から“遠話”だ!」


急いで施設の中に入り、魔法による“遠話”用の鏡がある部屋に駆け込むピットー。


「王子!お久しぶりです、ピットーです!よくぞご無事で!」

畳み掛けるように話すピットーに、ワハハと笑って答えるザンデロス。

「ダメもとでお前らの受け鏡を探してみたんだが…ジロッサや他の奴らも揃って無事で安心したぜ!」

隣にいるジロッサが、ピットーに説明する。

「ラブロウは無事だって!これからみんなでドラグガルドに向かうそうだ」

「ああ、生きてることは生きてるがどうやっても意識が戻らねえ。まぁ心配すんな。ちょっくら俺の国に連れて帰って叩き起こしてくるからよ」

ザンデロスはピットーらを安心させるような口ぶりでラブロウの現状について説明した。


「いや、それよりお前らには伝えなきゃいけねえことがある。メレラはこのオレがハーズメリア王都から追い払った。頭以外は吹っ飛ばしたから当分は何も出来ねえだろう。早く王都に戻ってハーズメリアを立て直しな!」


ザンデロスが映る鏡の前で驚く支援団の一同。

「ええ?!メレラを?!」


「おぉよ。変なのが王都に寄りつく前にさっさと戻りな。それが今のお前らの仕事だぜ。いいな!それじゃまた連絡すっから」

ザンデロスはピットーらに復興のため早急に王都は戻るよう促し、さっさと“遠話”を打ち切った。


「臨時王国府の者として、やる事が山積みだなピットー」

ジロッサはニッと笑いピットーを見る。

ピットーは少し不安気に周りの仲間達を見回した。


ふとピットーと目が合ったレンデイラは、優しく微笑みながら親指を立てた。


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