眠れる勇者
ハーズメリア王都にほど近い森林。
デズオンほかザンデロスの下臣団の魔法で隠された拠点に戻った一行は、一通りの治療を施した後、依然として意識のないラブロウの様子を見つめていた。
「うーん…どうも魔力欠乏による意識不明ではなさそうです。異空間に長期間放逐されたことや、自身の限界を遥かに超えた巨人の魔力殻装をとり続けたことが原因かも…。何にせよここではこれ以上手の施しようがありません。自然に意識を取り戻すのを待つしか…」
ラブロウの容態を告げるルドレオルザに対し、厳しい表情で寝袋で横たわるラブロウを見るザンデロスとベノス。
「どうだキーラ、ソザリアとの遠話の状況は」
魔法による“遠話”用の鏡の前で通信を試し続けていたキーラはデズオンの問いに対し
「ダメです、まだ繋がりません」
と首をふった。
デズオンはザンデロスに判断をあおぐ。
「どうしますか王子、ここで目覚めを待ちますか」
「…明日まで待つ。だが明日になってもラブロウは起きねえソザリアとも連絡がつかねえってんなら仕方ねえ。ドラグガルドに連れてくぞ。国の医術団や魔法研究団の奴らに診せりゃなんとかなるかもしれん」
「待つ以外でとれる最善策はそれしかないでしょうな」
ラブロウを連れてドラグガルドに戻る算段をつけるデズオンとザンデロス。
とりあえず今は様子を見るしかなくなったザンデロスは思い出したかのようにベノスに話をふった。
「おっと待たせてすまねえベノス。知り合いに連絡をとりたいんだったな。キーラ、探してやってくれ」
「承知しました、ベノス殿こちらへ」
そう言われてキーラの前にある顔より少し大きいくらいの鏡に近づくベノス。
「方角・詳細な場所がわかるのであれば、そこへ魔力を飛ばして“受け鏡”があるかお調べします」
そう言うとキーラは机の下から大きな地図とそれを覆う計測器や方位磁針のようなものがついた不思議な機器を取り出す。
「ここよりはるか南の方角、メクスドラ王国内のドセントという都市。そこに魔法遠話用の受け鏡がひとつあるはずなんだが」
「わかりました。探してみましょう」
キーラが地図上の不思議な機器に魔力をこめると、計測器や方位磁針がカタカタと動きはじめる。
しばらくすると機器から一筋の光がのび、地図上のメクスドラを指し示した。
「…確かに受け鏡の反応がひとつ。“接続”を行います」
キーラがそう言うと目の前の鏡に、ある部屋が映し出された。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうキーラ殿。…ジャルガさん、いるか?俺だ、ベノスだ」
ベノスが連絡をとりたかった相手、それは“ヘキオンズコープス”のオーナーともいえる人物・ジャルガだった。
ブラックドラゴンの侵攻ルートからメクスドラは外れていた。であればメクスドラに拠点をおくジャルガはきっと無事だとベノスは考えていた。まず伝えるべきはベノスが目の当たりにしたヘキオン村の惨状、王都での出来事。そしてこれからのことも考えなければならない。
いま手を借りれる相手はジャルガをおいて他にいなかった。
ベノスが何度か呼びかけると、鏡にうつる部屋の外から騒がしい声が聞こえる。
「え?!待って今の声ってもしかして…?!」
「いや間違いない!!ベノスだ!!」
その声にハッとした表情をするベノス。この聞き覚えのある声は…?!
「あぁーっ!ベノス!やっぱり生きてたんだなお前!!」
「わぁあ!よかったあぁ!!」
鏡に映ったのは、なんとスリッグスとティアミーだった。
「待ってたぞーベノス!必ず生きていると思っていた!」
遅れてジャルガも顔を見せる。
2人の登場にベノスは驚きを隠せない。
「心配かけたジャルガさん。それにしてもお前達…?!どうしてそこに?!」
「ブラックドラゴンに村が焼き払われちまって…生き残った村人の為の救援物資を調達できないか俺とティアミーでジャルガさんとこまで相談に来たんだよ!」
スリッグスの説明にベノスも質問を重ねる。
「村のみんなは?どれくらい生き残ってるんだ?!」
「被害は大きいし死んだ人もたくさんいるけど…村の半分以上の人たちはなんとか逃げることができて…」
ティアミーは半べそでベノスにそう答えた。
「あの業火の中を村人の半数も?!一体どうやって逃げ延びて…」
「…エンリスだよ!村の人達を助けながら、降りてきたドラゴン達もみんなやっつけたんだ!」
ティアミーの言葉に、その時の状況を一瞬で理解したベノス。確かにエンリスの強さなら幼体のブラックドラゴン数匹ならば敵ではないだろう。
「そうか、エンリスが…。アイツがいてくれて本当によかった。ロンボルト、アデット、タウザール…アフ先生も無事なんだな?」
「おう、ヘキオンズコープスは全員無事だぜ!ベースハウスは焼けちまったけどな。ただ…」
スリッグスがティアミーの方を見ると、ティアミーは視線を落とす。
「まさか…先生は犠牲に…?!」
ベノスの表情が険しくなる。
「ううん、先生は無事だよ。ちょっと色々あって…」
「なんだ?なにか問題が?」
訝しむベノスに、ティアミーが切り出す。
「…実は、みんな何とか避難した後、エンリスが先生を連れてどこかに行っちゃって…」




