光さす廃都
ハーズメリア城上空でぶつかるザンデロスとメレラの極大魔法。
ほぼ互角に見えたが、メレラは背後の召喚穴から這い出る異形の魔物を操り魔法を放出させており、その分上乗せされた魔法がわずかにザンデロスを押しつつあった。
「がぁああ…!!」
残った全ての魔力を放ち続けるザンデロス。
「ふ…ふふ…!いつまでもつかな?!」
余裕の表情をみせるメレラも油断すればたちどころに押し返されそうな競り合いに一瞬たりとも気をゆるめることはできなかった。
「これでどうだ!」
メレラは声と共に召喚穴から可能な限り魔物を喚び出しさらに魔法を放出させる。
競り合いは一気にメレラの優勢となり、メレラの魔法が徐々にザンデロスに迫る。
絶体絶命の状況であるにも関わらず、ザンデロスの目は一切戦意を失っていない。それどころか逆に笑みすら浮かべた。
「…こ、これがお前が出せる最大限の力みてぇだなあ…」
「そのくだらん虚勢が最期の言葉かザンデロス?!」
と、メレラが言葉を吐いたその刹那。
「ぐぅっ?!ぐがぁああ!!」
上空から凄まじい雷炎がメレラに降り注ぐ。
デズオンとルドレオルザがはるか上空から強力な攻撃魔法を放ったのだ。
異形の魔物は召喚穴ごと消し飛び、不意をつかれたメレラも強烈なダメージをうける。
「タイマンで勝負をつけれなかったのはシャクだが…まぁお前も山ほど化け物ども呼び寄せたんだ、かまわねぇか」
ザンデロスはそのまま全開の魔力を一気にメレラにぶつける。
「おぉおのれぇええ!ぐぉおああぁあぁぁぁ…!!」
絶叫をあげながらザンデロスの極大魔法をその身にまともにうけるメレラ。
凄まじい魔力の奔流の中、半身と両手足が消し飛び胸部と頭部だけのメレラを空間の歪みが覆いだす。
「デズオン!ルド!」
「承知!」
瀕死のメレラの挙動を見逃さず、ドラグガルドの竜たちは念話でコンタクトをはかる。
メレラに向かって放たれたザンデロスの極大魔法は、上空の分厚い暗雲に風穴をあけてはるか空の彼方までつきぬけていった。
メレラの姿がなくなり、魔力の影響が消失したためか次第に雲間から陽の光が差し出した。
竜たちは地上に降り立ち、人の姿に戻る。
「やっぱり逃げやがったか。しぶとい野郎だぜ」
「メレラの魔力はマークしました。転移先はすぐつかめるでしょう」
手負いのデズオンを支えながらルドレオルザはザンデロスに報告する。
どすんと地面に腰を降ろしたザンデロス。
「おう。傷は大丈夫かデズオン」
「は、ご心配をおかけしました」
ザンデロスたちの元にベノス、エルトロ、そして意識の戻らないラブロウを乗せたキーラが飛来。全員を降ろし人の姿に戻りながらすぐさまザンデロスとデズオンの容態を確認する。
「大丈夫ですか?!王子、デズオン様」
「俺は魔力が尽きただけだ、問題ねえ。デズオンをみてやってくれ」
デズオンは命に別状はないものの巨人から受けた傷は思いのほか深いようだった。
「不覚であった。すまんな、皆の者」
「何をおっしゃいますか。傷を負いながらもお役目を全うされるとはさすがでございます」
キーラは治癒魔法をかけながらデズオンのアシストを労う。
「それにしてもベノス。お前がいて本当によかったと心の底から思ったぜ。あのバカを止めてくれてありがとうよ」
ザンデロスはベノスに感謝を述べニヤリと笑った。
「…“魔”を討つために現れた“聖者”の行動を遮るって判断に間違いがなかったか、今でもわからんが…まぁなんとかなってよかった」
チラリとラブロウに目をやりザンデロスに答えた。
戦いを振り返るザンデロス。
「乱戦になったら戦局がどう転んでたか…あのままラブロウがメレラを倒せていたとは到底思えねえがな」
「常に強い結界と魔物に護られたメレラに転移先を掴むマークを打ち込むことは至難の業。十中八九逃走を図るであろうメレラにマークを打ち込むためには、王子になんとしても作戦通り極限の闘いに持ち込んでいただく必要があった。ベノス殿が不測の事態をおさめて下さったお陰で、今後あやつがどれだけ逃げ惑うたとてどこまでも追い詰めることができるでしょう」
と、ルドレオルザは付け加える。
「ひと段落したが、まだ終わったわけじゃねえ。ラブロウのバカをたたき起こして逃げたメレラにトドメをさしに行かねえとな」
ザンデロスは晴れ間ののぞく空を見上げ、戦いはまだ続くことを皆に告げる。
「とりあえず楽になった。一度拠点に戻り体制を立て直そう」
デズオンはそういうと竜の姿に変化。魔力が尽きて動けないザンデロスとラブロウを背に乗せた。
他のもの達も竜に変化し、キーラはベノスに背に乗るよう促す。
「ベノス殿、お約束どおり拠点に戻り次第、お知り合いの方との“遠話”を行いますので」
「ありがとうキーラ殿。助かる」
簡単なやりとりの後、竜達は廃墟と化したハーズメリア城を後にした。




