無差別攻撃
突如現れたまばゆい光を放つ巨人は、ランドワームをねじ伏せ大地に押さえつける。
「なんという神々しさ。あのような魔力殻装、見たことがない。あれが光の勇者…いや“聖者”たるものの力か」
ドラグガルドの賢人であるデズオンですら、その姿に驚きを隠せない。ルドレオルザがあらためて確認する。
「ではあれはやはりラブロウ殿?」
「うむ、巨人の心臓部…ラブロウ殿の姿がみえるであろう」
水晶のように透けた巨人の体躯の中央部に、意識の無いラブロウがふわふわと浮遊している。
「ラブロウは無意識の状態であの巨人の姿になって戦っているのか」
ベノスもエルトロの背からラブロウの姿を見つめる。
「生来与えられし使命をあのような状態でも遂行しようとしてあるのでしょう、“魔”を討ち滅ぼすという使命を。
ランドワームはラブロウ殿に任せ、王子の後方支援に向かいましょう」
デズオンはそう言い大きく翼を羽ばたかせた瞬間、それに反応するように巨人は顔だけをこちらに向けた。
「デズオン様!巨人が…!」
キーラの声と同時に巨人の目から閃光が放たれる。
想定外の巨人の動きに一瞬反応が遅れたデズオンの肩と翼を閃光が貫いた。
「なっ…?!」
空中でぐらりと体勢を崩すデズオンをキーラ達3体の竜はは即座に庇い、結界をはって護る。
押し潰さんばかりの力でランドワームをぐいぐいと大地に抑え込みながら、空中のドラグガルドの下臣達に強力な閃光を発射し続ける巨人。
凄まじい攻撃にキーラ達の結界はビリビリと振動し今にも破られそうだった。
「いかん!一度地上に降りるぞ!」
ルドレオルザの指示に一同はデズオンを抱えて猛スピードで巨人から離れた森の中に降下する。
だが閃光の雨は止まず森の木々を焼きながらキーラ達を執拗に狙う。ひと塊りになって結界をはりながら高速で低空飛行する一同。
「オイオイ!しつこいな光の勇者てのは!」
たまらず声をあげたエルトロに
「分散した方がいいんじゃないか?!」
と言うベノス。それにキーラは
「複数人の多重結界でなければこの攻撃には耐えれません!」と返す。
「ベノス!悪いがもう一回だけデートに付き合ってくんない?!」
エルトロの軽口にピンときたベノスはすぐに
「気乗りしないが付き合うしかなさそうだな!」
ベノスを乗せたエルトロはひと塊りになって飛行していた下臣達から離れると、Uターンし巨人に向かって行く。
「なにやってんの?!戻りなエルトロ!」
キーラの制止もきかず目立つよう体を発光させながら巨人に向かいスピードをあげるエルトロ。
「俺が引きつける、姉上達は出来るだけ離れろ!」
エルトロに狙いを変えた巨人。
エルトロは閃光を紙一重でかわしながら巨人の目の前を高速で横切る。
「こっちだこっち!」
その時、抑えつけられていたランドワームが怒涛の勢いで巨体をうねらせる。
ランドワームの長い胴体が巨人の身体に巻きつきグイグイと締め上げ始めた。
さすがにエルトロを相手にしていられなくなったのかランドワームを身体を掴み、もがく巨人。
「お!ランドワームに気が移ったか」
少し安堵するエルトロにベノスは
「俺たちも一旦地上に降りよう。上空じゃ目立ってまた狙われるかもしれん」
と忠告、エルトロはベノスを乗せ巨人から少し離れた森の中に降り立つ。
エルトロは竜の姿から人間の姿に戻り、膝をつく。
「大丈夫か?」
ベノスは声をかけエルトロの様子を見ると脇からは血がしたたっていた。
どうやら巨人に接近した際に放たれた光線が身体をかすめていたらしい。
「傷はたいしたことないんだけど、フルパワーで結界を維持しながら高速飛行はやっぱキツいわ」
額に汗をにじませながら苦笑いを浮かべるエルトロ。
「ここで休んでいろ。もう少しそばで様子をみてくる」
デズオンからもらったドラグガルドの魔法薬をエルトロに手渡すと、小走りに駆け出すベノス。
「お、おいベノス!近づくと危険…いでで」
エルトロはベノスを気にかけながらもすでに魔力・体力が限界だったようでその場から立ち上がることが出来なかった。
光線によって木々は焼かれ、土壌ごと薙ぎ倒されて荒地と化した場所から巨人とランドワームの戦いを眺めるベノス。
「途轍もない光景だな…」
まるで神話の一場面を見ているような気分だった。
ランドワームの締めつけから腕を抜き、両手でランドワームの口の両端を掴んで力づくで広げ出す巨人。
ランドワームは大地が震えるほどの轟音で啼く。
押し広げられたら口の中にめがけ、巨人は目から光線を放った。
さらに大暴れしながら巨大な咆哮をあげるランドワーム。閃光を照射し続けられた身体からいくつもの瘤が隆起しはじめ、体内に溜まっていく熱によってランドワームの体躯は膨張し次第に光を放ちだした。
際限なく膨らみ続けるのかとベノスが思った次の瞬間。
目も眩む閃光を放ちながらランドワームの身体の半分が粉々に爆ぜる。
残った半身はビクンビクンと痙攣しつつ少しずつ巨人に躙り寄る。
巨人は踏みつけ抑え、尾っぽの方を掴み勢いよく引っ張り捩じり引きちぎる。
ランドワームの半身が完全に動きを停止するまで執拗にバラバラにしていった。
散乱するランドワームの肉塊。
巨人はランドワームを完全に屠ったことを認識したのかしばし動きを止める。が、すぐさまハーズメリア城の方へ顔を向ける。
「メレラとザンデロスの方…あちらも区別なく攻撃するつもりか…?!」
ベノスの思ったとおり、放たれた光線はメレラ・ザンデロス双方を狙っているようだった。
そして巨人は目から光線を放ち続けながらゆっくりとハーズメリア城にむかって歩みはじめた。




