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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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決戦の火蓋

ハーズメリア城・王宮。

メレラの侵攻を受け一週間が経過した。

かつての優雅な面影はなく、柱や壁にはヒビが走り美麗な調度品は破壊され、王のために廊下にひかれていた絨毯や立派なカーテンなどもボロボロに引き裂かれている。


黒衣の下僕──メレラの黒い魔力を“纏わされた”王宮の従事者たちが、そこかしこでまるで彫像のように佇んでいる。侵入者が現れた時やメレラの命令を受けた時だけ動くことを許される人形と化してしまっているのだ。


静寂に包まれた王宮。

正面入口から足音が聞こえる。何者かが足を踏み入れたようだった。

竜の紋章が刺繍された白いマントを纏ったその者は迷いのない足取りで歩みを進める。

侵入者を察知し次々に集まる黒衣の下僕。

正面大広間で立ち止まった侵入者は声を張り上げた。


「我が名はベノス・ディメナード!騎士団訓練生としてハーズメリア国王に仕えていた!罪を犯し、王都に足を踏み入れることを禁じられていたが、危機に瀕するハーズメリアを救うため、命を奪われた者たちの無念を晴らすためここに再び馳せ参じた!」

まるで決闘前の名乗りのような、口上を行うベノス。


下僕に変えられた王宮の従事者達にもはや言葉が届くことはないだろう。だが再びここへ舞い戻ったことを告げずにはいられなかった。騎士を目指した者として。


ベノスの口上を気にも止めず一斉に闇の魔力を放つ黒衣の下僕達。


マントで身を守るベノス。闇の魔力こそ通しはしないものの、マント越しに重い衝撃は伝わってくる。

一斉に放たれた魔力はディアボリカの従者ゾゴムの攻撃にも匹敵した。

確かにブラックドラゴンとの戦闘の最中に後方からこの魔力を放たれたら厄介だろう。デズオンがこちらの掃討を必要としたのも頷ける。


ベノスは一番近くにいた黒衣の下僕の方へ一気に駆け、ドラグガルドの剣の刀身を発動させると一太刀で斬り伏せる。

闇の魔力をかわしつつ次々と黒衣の下僕を屠るベノス。

死んで倒れた者達からは黒い魔力が剥がれ、かつての姿が露わになる。皆、恐ろしいほど顔は青白く頰はやつれている。メレラの魔力に蝕まれ生命力を失ってなお動かされていたのであろう。

中には見知った顔、何度か会話を交わしたことがある者もいた。

つとめて心を奮い立たせ、ベノスは続々と現れる黒衣の下僕達と戦い続ける。



──四方の空から徐々にハーズメリア城に迫る4体のドラゴン。ドラグガルドの4人の下臣達だ。


エルトロはドラグガルドの竜同士だけが行える特殊な念話で話す。

「ベノスが王宮に入って交戦を始めた!…つうか、全体魔法使っちゃって、ベノスが巻き添えになったりしないッスか?デズオン殿」

「馬鹿者!そんな精度の低い魔法の使い方をするわけがなかろう。このデズオンの魔力制御できっちり上空のブラックドラゴンだけを焼き尽くしてやるわい」


異変に気付いたキーラが2人の会話を遮る。

「?!…ブラックドラゴンたちが、こちらに反応してません!」

これまで異常を発見するとすぐさま攻撃を行ってきたブラックドラゴン達が、こちらを見据えたまま翼を羽ばたかせ滞空している。


「ふふん、メレラめ気付いておるようだな。おそらくブラックドラゴンを操っての波状連携攻撃か、誰かに的を絞って集中放火か。もちろん想定しておったわ!このまま予定通り突き進み、配置につき次第、魔力を繋ぐぞ!」

デズオンの言葉にエルトロが不安を漏らす。

「え!俺の防御結界、集中放火に耐えれっかなぁ。まぁ持ち前のスピードで何とかすっか」

「ブツブツ言ってないでいくよ!」

キーラの声と同時に4体のドラゴンはさらに飛行速度を上げ始めた。



──ラブロウ支援団の施設。

ピットー、ジロッサたちはゼラーからの提案を受け、支援団たちだけで話しあいを行っていた。


「いや、昨日まで冒険者として暮らしてきたアタシらに臨時王国府の運営なんてつとまる?」

レンデイラの言葉はその場の誰もが思っていたことだった。

「しかし、こんな大役はそう巡ってくるものじゃない。どちらにしてもラブロウの生死もわからぬ今、ハーズメリアのためにやれることはやるべきだ」

年長者の魔法使いデルグは前向きな様子だった。

「ヘマは出来ないよ?冗談抜きで国の存亡に関わる。それでもやれるかい?デルグさん」

ピットーは慎重に決断するよう促しつつ、リーダーたるジロッサの判断をあおぐ。

「どうする?ジロッサ」


無言で深く考えるジロッサ。

自分ひとりで動くならいい。でもメンバーも巻き込むとなると…メンバーの意志も様々。これまで苦楽をともにした仲間たちだ。この決断によって袂を分つような事態になるのは避けたいが…。


考えながら窓の外をぼんやり眺めていた女魔法使いのリーリーが異変に気付く。

「ちょっとみんな!アレみて!」

窓に集まり一同が見上げたその先には──。


なんと、巨大な光球が猛スピードで空を横切って行く。

驚きのあまり唖然とするメンバー。


光の尾を引きながら光球はさらにスピードをあげて北の空へ飛行していった。


「な、なに今の?!」

口々に驚きの言葉を発するメンバーの中で、ピットーはふと気がつく。

「あの方角、もしかして…ハーズメリア王都じゃないか?」

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