臨時王国府
「まず、我々下臣団が四方から飛行して王都に接近し、囮となって注意を引きつける。王宮周囲からブラックドラゴンどもを引き離すのだ」
ベノス、ザンデロス、ドラグガルド下臣の面々が卓上を囲み作戦会議を行っている。
デズオンはどこから用意したのか王都及びハーズメリア城と王宮の周辺地図を指し示しながら作戦を説明する。
「王子は敵の探知の及ばぬ遮蔽結界をはって上空で待機いただく。ブラックドラゴンどもの注意をこちらに引きつけたら広範囲全体魔法を発動させ、一網打尽に。それと同時に、王子にはメレラがいると思しき王宮の謁見の間に降下・突入していただきます」
ザンデロスは右の拳を左の掌にバシッと打ちつけると好戦的な笑みうかべながら
「サシでケリをつけろとは、わかってるじゃねーかデズオン」と言い放つ。
「下手なフォローは足手まといになりかねんでしょう。仲間の守りや状態を気にかけながら戦うより、徹底的に攻勢を図っていただく方がよろしい。まぁこのデズオンは長年お供させていただいておりますゆえ、王子の戦い方はよく存じ上げている。私は外のブラックドラゴンを始末し次第、うまく後方支援いたします」
一騎打ちのお膳立てをしつつも、下臣としてアシストは必ずする心づもりであると遠回しにつげるデズオン。
「ふふん、出る幕はないと思うがな」
自信たっぷりのザンデロス。
そして最後にベノスにむけて個別に役割をつげる。
「そしてベノス殿には、エルトロに任せるつもりだった役目を担っていただこうかと」
「承知した。内容は?」
デズオンは地図上の王宮周囲を指しながら説明する。
「王宮内には、メレラの下僕と化した者達が多数おりブラックドラゴンと同じく侵入者に攻撃を加えてきます。そ奴らの討伐をお願いしたい」
デズオンの要請に返答するベノス。
「ああ、ハーズメリア国王の公開処刑を行った時にメレラの傍らにいた黒衣のやつらだな。任せてくれ」
ベノスの返事にデズオンは、黒衣の者の正体を明かし出す。
「あれは黒衣ではなく、纏わり付くメレラの魔力です。そしてその魔力を纏わされた者達というのが…」
デズオンの言葉に察するベノス。
「王宮で従事していた者たちか」
「左様。メレラ急襲の際にまとめて犠牲となったようです。数日前に1人捕縛に成功したため、なんとかメレラの魔力からの解放を行ったのですが、強い魔力に蝕まれた心身は極度に衰弱しており苦痛に喘ぐも手の施しようがなく…。ひと思いに命を絶ち、楽にしてやることしかできませんでした」
黒衣の者達の正体を知れば、ベノスが討伐に躊躇すると思ったのであろう。デズオンは暗にそれでもできるかという覚悟をベノスに問うているようだった。
「…わかった。自分も元は王国に従事した者。彼らを苦しみから救ってやるのはむしろ俺が適任かもしれん」
デズオンは承諾したベノスの心中を慮り言葉をかける。
「心苦しい役目かもしれませぬが、よろしく頼みましたぞ。強力な攻撃魔法を放ってきますが、今身につけておられるドラグガルドの魔法衣であれば完全に無効化できるでしょう」
「よーし、それぞれ役割は理解したな。準備ができ次第、王都に向かうぞ!」
「は!」
ザンデロスの言葉に応じるドラグガルド下臣達。ベノスも強く頷く。
早速、各々身支度を整え始める。戦いの時は、刻一刻と迫っていた。
──ピットー、ジロッサがいるラブロウ支援団の施設。
昨日に引き続き今後の動きについての話がなされている。
そこでゼラーから、生存していた前国王フロウドのもと臨時王国府を立ち上げる話を持ちかけられる。
「ハーズメリアをここで亡国にするわけにはいかぬ。近隣国が動き出す前に表明をしておく必要がある」
ゼラーの提言に、ピットーが問い返す。
「お言葉ですがゼラー教官、僕らだって明日も知れない身です。それにメレラの支配が続くこの状況…その話は今すぐにでなくても」
「いや、ピットーよ。今すべきなのだ。近隣国からの適切な助力を得るためにもハーズメリア王国はまだ滅びてはいないと言っておかねばならん。メレラ討伐を理由に他国が軍を動かし始めれば、なし崩しで王国領地は接収されていく。最悪、ハーズメリアがメレラに与したと見なされれば、まだ生存している王国民の命も危うい。そうなってからは遅いのだ」
その話に理解は示すも、釈然としないものがあるピットー。
「しかし…諸国と政治的なやりとりが出来る人が必要だと思うのですが、王国の重臣や将官が全員失われた今…」
現実的なことを考え、否定的な意見のピットーに落ち着いた語り口で話すゼラー。
「私ももちろん命を賭して関わるつもりだが…ピットー、ジロッサよ、この臨時王国府についてはラブロウ支援団が中心となって動いてはもらえないか?大袈裟でも何でもなく、王国の未来のために」
臨時とは言え、自分たちが国を動かす?!
突拍子もない提案にピットー、ジロッサだけでなく支援団メンバーのレンデイラやデルグも驚きを隠せなかった。




