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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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追蹤

──ハーズメリア王都にほど近い森の中の、デズオン達の隠れ家。

到着から一夜明け、今日にも決戦に向かうだろうという緊張からあまり眠ることができず寝袋から起き上がったベノス。


ザンデロスをはじめデズオンらもまだ眠る中、キーラだけがすでに起床して荷物や道具の整理を行っていた。


「あらベノス殿おはようございます!…その様子だとあまり眠れなかったみたいですね」

微笑みかけるキーラに挨拶と笑みを返すベノス。

「おはようキーラ殿。さすがにメレラが近くにいるこの状況ではな…。やはりドラグガルドの者達は肝の座り方がちがうな」

そう言って起きる様子のないザンデロスらに目をやる。

昨晩、テーブルに突っ伏したまま眠ってしまったザンデロスだったが、いつのまにかきちんと寝袋に収まって寝ている。


「この人達は特別。色んな戦いの場を経験して眠れる時にはしっかり眠るのがしみついてるんですよ。私も怖くないと言ったらウソになりますから。あとエルトロは他の御三方と違っていじきたなく寝てるだけ」

そう言ってエルトロを見てため息をつくキーラ。

ベノスはそんなキーラに思わず笑いがこぼれた。


ふと、ベノスの顔をジッと見つめるキーラ。

「やっぱり疲れがとれてないみたい…ベノス殿、少し後ろを向いていただけます?」

「…?」

素直に背を向けたベノスに体力回復の魔法をかけるキーラ。

「!…いいのか?キーラ殿」

「ふふ、全然構いませんよこれくらい。むしろ万全の状態で望んでもらわないと」

「すまない、ありがとう」

暖かく心地よい魔力がベノスの身体流れ込んでくるのがわかる。

一年以上前…ゴブリンに襲われ傷だらけで保護され、ヘキオン村でアフの治癒魔法を受けた時のことを思い出すベノス。


嫉妬とプライドから暴挙に走り、輝かしい未来も高名な家柄も全て自らの手でぶち壊した。


自棄と絶望を抱きながら去ったハーズメリア王都に再び戻って来ることになるとは──


あのまま騎士団少年部で訓練を続け、正規騎士として騎士団に入団していたとしたら…メレラの侵攻を受けた王都で俺は生き残れていただろうか?

アフやロンボルトらヘキオン村の人々、共にダンジョン探索したベッカーやモンスター討伐業に尽力してくれたジャルガ、ザンデロスとドラグガルドの下臣団。

こんなにたくさんの良き出会いを経験していただろうか…。


キーラがポツリと呟く。

「…色々な事があったのですね。ここに来たのも運命による導きがあったのかも…

…あ!ご、ごめんなさいすみません申し訳ありません!心をのぞき見するつもりは…その、治癒魔法の時は思考が通じてしまうことがあって…」

意図せずベノスの心に触れてしまったキーラは慌てて弁解する。そんなキーラに苦笑いしながらベノスは言った。

「いや、同じようなことを以前体験しているから特に気にしないよ。それにこちらも素性をまるで話していなかったから手間がはぶけた。…驚いただろう?光の勇者を殺そうとした男が王子と同行していたなんて」


キーラはベノスに回復を行いながら、静かに思いを口にする。

「正直、驚きましたが…同時にベノス殿が抱いている過ちへの深い後悔、新しい出会いから得た安らぎや充足感、大切な人達を失った哀しみを感じとって…すくなくとも私は、信用しても問題ない方だと思いました。無恥な者や心無き者であればそんな思いやりや後悔を抱くことはありませんから」

キーラの気遣いになにか申し訳なさを感じるベノス。

「すまない。戦いに望む前に驚かせてしまって」

「そんな。私の方こそ…」


「朝から何イチャついてんだよおめぇら」

ザンデロスは寝そべったままベノスとキーラを茶化す。

ザンデロスの起床に全く気づいていなかった2人はビクッと肩を揺らす。

「いやいつから起きてたんだ」

「回復魔法かけだしたあたりかな」

なお寝そべったままのザンデロスに、

「無言で様子を観察するなよ…」

と突っ込むベノスであった。



──ハーズメリア王都から南西に位置するラブロウ支援団の詰所。ただ詰所というにはかなり大きく、数十人が宿泊でき、物資を潤沢に保管できる大きな倉庫もある施設だ。

ブラックドラゴンの大群の進行ルートから少しそれていた為に無傷の状態であった。


たったひとりでなんとかここまでたどり着いたジロッサを、先に到着していたピットーやレンデイラたちが出迎える。

「ジロッサ!よかった、無事で…」

「みんなこそ…!必ず揃ってまた会えると信じていたよ」

みんな再会を涙して喜ぶ。


休むまもなく円卓でこれまでの経緯や状況を報告するジロッサとピットー達。


「…実は、昨日からソザリアと一切連絡が取れなくなったんだ。ラブロウどころかキアヒナにも異変が起きているようだ」

ピットーの言葉に返事もなく目線を落とすジロッサ。ラブロウの帰還だけを希望にここまで頑張って来たが、もはや全てが不明な状況に、自分達の今後の方向性を見直さざるを得なかった。


「ここも絶対安全とは言い難い。一旦、ハーズメリアから離れ安全な地で体制を整えよう」

団員達はみなハーズメリア出身である。まるで祖国から逃げるかのような言葉に戸惑うものの、メレラの力を見た今となってはそれが最善だと思う他なかった。


ジロッサの国外への脱出の提案に答える前に、ピットーはある報告を行う。

「ジロッサ。実は僕らがここに到着するより先に、ここに避難することができた人たちがいるんだ。紹介しても?」

「ああ。それは構わないが」

避難民と会うのはこの話し合いが終わってからでも…と思うジロッサであったが、部屋に入ってきた人物を見て驚いた。

「久しぶりだな、ジロッサ」

「ゼラー教官?!」

久々の恩師との再会に驚くジロッサ。


「いや、よくぞご無事で!僕たちが支援団設立のため少年部を退団した後、教官を辞されたと伺いましたが…」

「ああ、そしてその後に、この方の護衛の任務を志願してな」

ゼラーの後ろに立つひとりの老人も、ゼラーと同じくピットーもジロッサもよく見知った人物だった。


「庭師のじいさん?!」

「逞しくなったなぁジロッサ」

かつて、ベノスの狼藉を咎めたりいじめられていたピットーを何かと気にかけるなど、騎士団少年部との関わりも多かったが、意外な人物の登場にまたしてもジロッサは驚いた。そんなジロッサにゼラーは説明を行う。


「まあ、知らぬのも無理はあるまい。王位をお譲りになられたのがもう20年以上前の話だし、長年ご身分を隠したまま王宮の設備方にあえて回られずっと過ごされていたからな。この方は前国王・フロウド=ハーズメリア陛下だ」


※庭師のじいさんのエピソードについては、第3話「ベノスとラブロウ」をご覧下さい。

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