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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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語られざる戦い

10日ほど前にドワーフの地下精製場跡でベッカーと交わした話…そう、“30年前の亜人種の一斉失踪”だ。


「30年前、亜人種が一斉に姿を消したと聞いた事があるのだが…まさかとは思うがそのモナルカとドラグガルドの戦いが絡んで…?」

「おや、亜人種の件をご存知でしたか。彼らは皆ドラグガルドで保護したのですよ。モナルカどもに利用される前に」

ベノスは驚いた。こんなところであの話が繋がってくるとは。


「亜人種をすべて?何だってそんなことに…?!」

「モナルカの者どもが、亜人種たちを操り各国に不毛な争いの種を撒こうとしておったのですよ。一部のドワーフ達がモナルカの口車にのって魔法の武器を精製し、モナルカどもに供与しておったのですが、ある時精製に失敗し我らに助けを求めにきて発覚したのです。」

例のドワーフの精製場跡にそんな経緯があったとはベノスには想像もつかなかった。


「我々が調査したところ、他にもすでにモナルカと接触し唆された亜人種の部族が人間と諍いを起こしておりましてな。あのままではモナルカ達の企みによって亜人種たちがいらぬ迫害を受けることにもなりかねなかった。ドラグガルドには竜族だけでなく、亜人種をルーツに持つ者も多いので、いっそこれを機に移住を望む者は全て受け入れようということになりましてな。殆どの種族は我々の提案を快諾しましたよ。我ら竜族に対する強い畏敬もありますでしょうが」

当時のこと振り返り語るデズオン。


ふとザンデロスとディアボリカの会話をベノスは思い出した。

「そういえばザンデロスが、自分の叔父がモナルカを壊滅寸前に追い込んだと話していたが…」

「その通り。王子のお父上である現国王陛下の弟君・ギルメル公のご活躍により、暗躍するモナルカの当主は討ち滅ぼされました。手下郎党も私を含む当時のドラグガルドの精鋭達の手でほとんど一掃したはずでした。わずかな残党どもの存在については認識しておりましたが…あのような娘が当主となり姿を現すとは思いもよりませんでしたわい」

モナルカとの過去について話すデズオンに、ベノスはドラグガルドの者達が世にほとんど知られることのない戦いを続けていたことに驚嘆していた。

「世界の裏側だとか真実を目の当たりにしたような気分だな…。歴史書をいくつか読んだことはあるがドラグガルドやモナルカに関するの記述など一切見た事がない。貴方達の存在と歴史…驚きしかないよ」


「ほっほっほっ、人々の綴る歴史では語られぬ…それが“人”と“魔”と“聖者”の相剋の円環の外に在る者のさだめ。しかし我々は世界に変革が起きる時、渦中にいる者と深く関わるさだめでもあります。ベノス殿が今まさにそうであるように。貴方は変革の渦中にいる者、当事者のひとりであることは間違いないでしょう」

デズオンは微笑みながらベノスがすでに世界を変える大きな流れの中心に身を置いていることを告げる。


「世界か…俺にはいささか荷が重い気がするが。デズオン殿が先ほどメレラを“魔”たる存在と言っていたが、となると魔を滅すという“聖者”たる存在は…」

「先ほどのソザリアの者とのやりとりを聞き確信しました。間違いなくラブロウ殿です。王子との旅の様子を我々も見聞きしラブロウ殿に“聖者”たる資質があるのか疑念を抱いておりましたが…“聖者”が越えねばならない最大の艱難・“冥府への追放と現世への帰還”を成し遂げられたようだ。“聖者”となりえる可能性を秘めた者は大勢おりますが、この艱難を超えられるかどうかが鍵。ラブロウ殿が異空間を脱出した後どこへ向かわれたのかは不明ですが、必ずメレラを滅ぼしに現れるでしょう」

ベノスの疑問に確信を持って答えるデズオン。


「…とは言えメレラは我々にとっても因縁ある相手。このままいつ来るとも知れぬラブロウ殿をぼんやりと待つような気質ではありませんぞ、我々ドラグガルドの者は。流れを変えれずとも、戦えぬ・討ちとれぬわけではありませんからな」

デズオンの言葉に引っかかるベノス。

「因縁?ドラグガルドとメレラに?!」


「魔法郷ソザリアが侵略される2年ほど前…我々はある国に加勢を乞われ赴いた戦場で“魔法兵器”として運用されておったメレラと遭遇しておるのです」

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