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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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手荒な歓迎

突如斬りかかってきたエルトロの剣を、瞬時に発動させた魔法の剣ではじくベノス。


これまで対戦した剣を扱う者たちを遥かに上回る高速かつ正確な斬撃に怯むことなく応戦するベノス。

「何してんのエルトロ!」

キーラの言葉にも耳をかさず、疾風の如く剣を振るうエルトロ。薄っすら笑みを浮かべ楽しんでいるようだった。


超高速の剣技の攻防。

だがベノスの剣捌きがわずかに上回り、エルトロが剣を振りおろすより先にベノスの剣の鋒がエルトロの喉元でピタリと止まる。


「へえぇ、やるじゃん」

ヘラヘラしながら剣を捨て両手を上げるエルトロ。

「ふふ、俺もこれほど鋭く鮮やかな太刀筋の使い手に会ったのは初めてだ」

ベノスもニヤリと笑う。


「何やってんだ!」

ルドレオルザとキーラに頭をぶたれたエルトロは、頭を抑えて座り込む。

「いってぇ〜…でもさぁ〜みんなも気になってたろ?ベノス殿がどれほどの腕前か」


「王子の御朋友に対しなんと無礼な!恥を知れ馬鹿者!ベノス殿、大変失礼した!」

慌てて駆け寄るデズオンにベノスは微笑み言葉を返す。

「いやデズオン殿。王子と同行していたとはいえ、どこの馬の骨ともわからない人間の扱いには困るのは当然だ。実力を測りたくもなるだろう。ドラゴンになれるあなた達に比べれば取るに足らんだろうが、これで少しは戦力になると思ってもらえるかな?」


そう言うベノスにデズオンも本心を語る。

「…剣技でエルトロに勝てる者はドラグガルドでもそうおりません。私や王子ですら不覚をとることもある。それをこうも易々と退けるとは…正直、ベノス殿の剣技には大変感服しております。基礎的な型をきちんとマスターされた上で実戦経験もかなり積んでおられると見える。しかも突然の攻撃にも怯まぬ胆力と判断力・俊敏さ。私が考えておった以上です」


「まぁ、俺は試すまでもなく最初から見抜いてたけどな!じゃなきゃこんなとこまで連れてこねぇよ」

ザンデロスは自身の彗眼ぶりを自慢げに話す。


「無礼な振る舞い、お許し下さいベノス殿。…エルトロ、アンタ手ついてあやまりな!」

キーラはエルトロを睨みつけながら首ねっこを掴んでひざまづかせる。

「痛い痛い、姉上痛いって」

エルトロとキーラは姉弟らしい。


それを見たベノスは恐縮した態度で

「いやキーラ殿、手荒な歓迎のお陰でなんとか戦列に加えてもらえそうでむしろエルトロ殿には感謝したいくらいだ。あと、皆ベノスと呼び捨ててくれて構わない」

とキーラに言う。それを聞いたエルトロは

「オッケー、あらためてよろしくベノス〜」

と言いながらベノスと強引に握手をする。

後ろから睨みつけるキーラの視線を感じたエルトロはすかさず言い訳する。

「いや、本人がいいって今いったから…」


エルトロの突飛な行動には慣れっこのザンデロスは特に咎める様子もなく再び下臣達に命じる。

「よし、じゃあキアヒナに遠話だ」


キーラはテーブルの上のいくつか並ぶ鏡の内の一枚に魔力を込める。

だが、鏡は通常の鏡面のままだ。

「…?変ね、通じない…」

「どうした?」

「“受け鏡”が無いようです…昨日までは普通にやりとりできていたんですが」

こちらが送った魔力を受信するための魔力を込めた鏡がなく遠話が不能であることを説明するキーラ。

「キアヒナ様の鏡以外の、ソザリアの他の受け鏡が生きているか調べます」

キーラは目を閉じさらに魔力を高め探知を行う。


「ひとつだけ見つけました。通信を行います」

薄っすらと鏡に映し出された情景は、ヒビだらけの鏡面と瓦礫の山。崩れ落ちたソザリアの中央塔だった。


驚き、鏡に向かって叫ぶザンデロス。

「なっ…!なんだこれは?!おいっ!誰かいるか?!」


呼びかけ続けるザンデロスの声に気づいたひとりの若い魔導士が割れた鏡に走り寄ってくるのが映る。

「ザ、ザンデロス様ですか?」

「なにがあった?!メレラの残党に襲われたのか?!」

事情を問うザンデロスに若い魔導士は躊躇いながら答える。

「キアヒナが異空間のラブロウ様を救出に向かったのですが…ラブロウ様は無意識のまま異空間で巨人のような魔力殻装を発現させており、キアヒナに攻撃を加えた後、塔を破壊しながら異空間から力ずくで脱出したのです…」


予想だにしない展開に驚愕するザンデロス。

「キアヒナは?!ラブロウはどうなった?!」

「キアヒナは重傷を負い、未だ意識が戻りません。ラブロウ様は…姿を変え何処かは飛び去っていかれました…」

そこまで説明するとソザリア側の鏡が限界だったのか、がしゃんと割れ落ち遠話は途絶えてしまった。


「お…王子」

ザンデロスにかける言葉が見当たらないキーラ。

ザンデロス自身も言葉を失い、険しい表情のまま力の限り拳を握りしめていた。

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