騎士団少年部行軍演習②
「お前たちがグズグズしているから!こんなことになってしまったんだあ!」
ジロッサは疲労でおぼつかない足取りでラブロウ・ピットー・カムラの3人を後方から罵った。
「僕らが地図を確認してる時にことごとく間違ったルートを選んで先に進みつづけたのはキミだろジロッサ…」
疲れきった表情のピットーは呆れながらでジロッサに目をやった。月明かりとランプの灯りでは使い込まれたシワだらけの地図を確認するのは困難だ。
「うるさい道具屋の息子!ならばなぜその時に訂正しないんだ役立たずめ!」
「したじゃないか、何度もその道じゃないって…」
うんざりしながらピットーはつぶやいた。
「でもオレが育った山に比べたら全然歩ける道だしこんなのどうってことないって」
山育ちのラブロウだけピンピンしており、こんな夜道でもしっかりとした足取りで進んでいる。
確かにジロッサのせいでめちゃくちゃなルートを歩き続けて来たが危険な場所だけはラブロウのフォローで回避されながら進めていた。
「おっ、この辺で野営すっか」
少し開けた場所に辿りついた4人はようやくひと段落することに。おそらく昼間に何度か地図を見ただけで自分たちのおおよその位置を把握しておりこの場所に向かって進んでいたのだろう。
荷物をおろしへたり込むジロッサとピットー。カムラは無言で野営の準備を始める。ラブロウも枯れ木を集め火を起こす準備をする。
「おお、慣れた感じだな。カムラも山育ちか?」
「ん…まあ…そうだな」
騎士団少年部でもベノス達につぐ成績を誇るカムラだが、基本的に他の訓練生と交流をもとうとはしない。昔、スラドルにからかわれ大乱闘をして以降、腫れ物扱いだ。
ただピットーはベノス達に雑用扱いされる自分と口数こそ少ないが対等に接してくれ、時に手助けしてくれるカムラの優しさを知っていた。
「ごめんカムラ、手伝うよ」
「大丈夫だ。しばらく休んでろ」
ピットーに対しぶっきらぼうに答えたカムラは黙々と作業を続けた。
「そうだ、僕は疲れているんだ。皆んなさっさと食事の用意しろよ」ジロッサは寝転がりながら他の3人に命令した。
そこへ辺りの枯れ木を集めていたラブロウが足早に戻り
「おい、なんか変だ。ここを離れっぞ」
「え、なんで?どうしたんだよ急に」
突然のことに目を丸くするピットー。感情を表に出さないカムラも少し驚いてる。
「風にのってニオイがする。モンスターのニオイだ。
結構デケえやつだ。こっちに近づいてきてる。」
もう遅い…とでも言いたげにラブロウの手が青白く光出した。魔力を集中し魔法が込められ始めていた。
ピットー、カムラの表情に緊張が走り、外した鎧を着直し剣を抜いて周囲を警戒する。
数メートル先の木々の間の、静かに近づいてくる物陰と草を踏み締める音はもうピットーにもわかる。
「んん?なんだあ?」
ジロッサは上半身を起こし振り返った。
鬼のような形相の人面に巨大な雄牛の身体をもつモンスター・フンババがジロッサを見下ろしていた。