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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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“人”と“魔”と“聖者”の相剋

「久しぶりねベノス。会いたかった」

微笑みながらベノスに話すディアボリカ。


「俺は勘弁してほしかったがな。何の用だ」

ベノスはいつでも反撃が出来るよう魔法の剣を握り締める。

「この間はごめんなさい。ゾゴムが勝手にアナタのこと殺しに行ったみたいで。ま、私が気紛れで唾つけた者の選別をゾゴムが行うのはいつものことだから、あーそうなんだって感じだったんだけど」

ディアボリカのかわいこぶった謝罪に

「ごめんなさいで済むとでも?」と返すベノス。


「でも事の顛末を聞いて私、どうしてもアナタが欲しくなっちゃって。…“福音”をうけてるんですって?死の未来視を回避できたのもきっとそれのお陰でしょうね」

「だから何なんだ、そのフクインってのは」

ベノスの問いかけにゾゴムが割って入る。

「…はるか昔、異世界からこの世界に迷い込んできたひとりの信奉者がおった。その者は神からもたらされる良き啓示、祝福のことを“福音”と呼んでいたそうだ。それに倣い、我々は強い魔力の影響を受け能力を獲得することを“福音”と呼んでおる」

以前、手傷を負わされ憎々しげな目線を向けるゾゴムに対し冷静に返すベノス。

「ラブロウから受けたこの魔法傷のことか。お前の闇の魔力を無効化してくれたもんな。厄介だから今度は仲間にでも引き込もうってのか?」


「あのねぇベノス。福音って滅多に起きることじゃないの。だって魔法攻撃を受けた程度で魔法が使えるようになったら、そこら中魔法使いだらけでしょ?」

ディアボリカはベノスの身体に起きたことが非常に稀なことであると説明する。


「魔法が通じないからとかそんなつまんない理由じゃないわ。私が欲しいのは幸運の持ち主。あなたのような人こそぜひとも私達“モナルカ”の一員に加えたいの!」


「──ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」

ディアボリカの背後からザンデロスの声が響き渡る。

ザンデロスの周りには今にも白竜に変身しそうな勢いの魔力が充満している


「こっ!こやつは…!ドラグガルドの第一王子ザンデロス!なぜこんなところに?!」

ゾゴムはザンデロスの突然の登場に慌てふためく。


「ザンデロス!気をつけろ!コイツら…」

「知ってるよ、“モナルカ”だろ。こそこそ影で動き回ってるゴキブリみたいな連中だよ」

ベノスの警戒とは裏腹にザンデロスにとっては既知の存在であるようだった。


先ほどまでニコニコとベノスと会話をしていたディアボリカが一瞬にして冷たい表情に変わる。

「ドラグガルドの…。あなたに用はないのよ」

「こっちだっててめぇらとなんか会いたくねえっての。ただ会ったからには…覚悟はいいな?」

更に高まるザンデロスの魔力。


冷や汗をかきザンデロスを睨みつけていたゾゴムは、先手を打って闇の魔力を放出。


しかしザンデロスの振り下ろした手刀から生じた光の斬撃は魔力の奔流を掻き消した上、ディアボリカとゾゴムめがけ飛んでいく。

断末魔を上げる暇もなくゾゴムの身体は斬撃に斬り裂かれる…というより、巨大な斧に押し潰されるような形でチリとなって消えた。だが、ディアボリカの姿は一瞬早くその場から消えていた。


「ゾゴムったら…ホント馬鹿ねえ」

ザンデロスの背後からため息をつきながら現れるディアボリカ。

「後ろから殺れる絶好のチャンスじゃなかったか?」

振り向きもせず言うザンデロスに対しディアボリカは

「そんな手に引っかかるほどバカじゃないって」

と嘲るような表情を浮かべる。


ザンデロスは死角からディアボリカが攻撃してくることを想定し、何らかの魔力攻撃を自身の周囲にしかけていたようだったが、ディアボリカに感づかれ発動する事はなかった。


ザンデロスはディアボリカから距離をとり、守るようにベノスの前に立った。

「一体何者なんだ、コイツらは」

ベノスの問いかけにザンデロスは淡々と話し出す。

「お前はおそらくはじめてきくだろうし、なかなか信じ難いかもしれんが…この世界には、ある(ことわり)が存在している。“人”と“魔”と“聖者”の相剋。3すくみ…ジャンケンみたいなもんだ。

──“魔”は人に災いをもたらし、“人”は聖者を育み、“聖者”は魔を滅ぼす。このルールに則って支配者、統治者、変革をもたらす者は円環しているんだ。…だがその相剋、円環から外れた存在がいる。それがコイツら“モナルカ”の連中やソザリア、ドラグガルドで生まれ育った俺のような者達だ」


ザンデロスの言う通り、ベノスは初めて耳にした。この世界にまさかそんなルールが存在していたとは…。

「コイツらは、“魔”ってやつじゃないのか?」

ベノス質問に、目の前のディアボリカを馬鹿にするような言い方で答える。

「コイツらに出来るのは、災いをもたらすとか支配といった大それたことじゃねえ。手前勝手な理想や都合を人々に刷り込んでコントロールし、黒幕気取りたいだけの哀れな連中さ」

それを聞いたディアボリカは微笑みを浮かべながら

「あははぁ、勇者のペットやってるあなたがよく言うわ」

と言葉を返す。

「毎度叶わない野望を掲げちゃあこっぴどくやられて泣いて逃げるお前らのダサさにゃ敵わねえって。30年前もウチのギルメル叔父に壊滅状態に追い込まれたんだよなぁお前ら。親父やじい様によく聞かされたぜ、お前らの情けねえ敗走の歴史をな!」


ザンデロスの煽り立てるような言葉に耐えかねるようにディアボリカの周囲に黒い魔力が渦を巻いて立ち昇った。


黒い渦の中から再び現れたディアボリカの姿は変貌しており、顔には呪印のような模様が刻まれ長い黒髪は巨大な蝶の羽と化しゆったりと羽ばたかせている。ひらひらとした格式ある令嬢のようなドレスは消え失せ、身体のラインがくっきりと浮き出た漆黒のボディスーツに変わっていた。


「アナタに用はないのよ。ベノスをさっさと渡しなさい」

怒気をはらんだ声でザンデロスに言い放つディアボリカ。羽をブォンと羽ばたかせると、周囲に寒気がしてくるほどの強い魔力が辺りを駆け抜ける。


「出来るもんならやってみろ!」

ザンデロスの闘争心に火がついたらしく、身体から魔力が噴き上がる。白竜の姿をとるつもりだ。


「お、おいザンデロス!」

「下がってろベノス!」そう言いベノスを下がらせた次の瞬間──。

突如、4体のドラゴンがディアボリカとザンデロスの間に降り立った。

ディアボリカは警戒し後方に退く。


「王子が相手をするまでもありませんぞ。ここは我々に」

一際屈強なドラゴンがザンデロスに向かって旧知の間柄であるような口ぶりで言葉をかけてきた。


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