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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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ディメナード家の兄弟

ベノスとザンデロスは1時間ほどの道のりを歩き、ディメナード家の屋敷のそばまで訪れた。


「…俺はこの辺で少し休憩しとくぜ。終わったら起こしてくれよな」

そう言って木の根元に腰を下ろすとすぐに眠ってしまった。何ともなさそうな顔をしていたが、久々の白竜の姿での高速飛行はやはり疲れたのかもしれない。


1人屋敷の前まで来たベノス。

屋敷もブラックドラゴンの襲撃を受けたようですっかり焼け落ちてしまっていた。

焼け跡では複数の男達が何やら運び出した物を仕分けしている。火事場泥棒かと思ったベノスは足早に男達に近づいていく。すると男のひとりがベノスに気付き警告を呼びかける。

「止まれ!ここはディメナード家の敷地だ!用なくば早々に立ち去れ!」

男はすすだらけではあるがきちんとした身なりをしており泥棒には見えない。


「どうした?誰か来たのか?」

そう言いながら奥から顔を見せたひとりの男。ベノスはその顔にはっと息を呑んだ。

「兄さん…?」


ベノスの声にその男──マイザ・ディメナードは驚愕した。

「…!!まさか…べ、ベノスか?!」


マイザは驚きの表情でベノスの爪先からてっぺんまで見回すとゆっくりとベノスに歩み寄る。


無意識に視線を落とすベノス。ベノスの眼前まで来たマイザは次の瞬間、力いっぱい抱擁する。


「この大馬鹿野郎…!!」

殴られ罵られる覚悟をしていたべノスは突然のことに驚きを隠せない。

「すまない兄さん…迷惑をかけた」

「迷惑なことなどあるか…!生きていて良かった…!」

そう言いベノスの顔をまじまじと見つめたあと、マイザは部下であろう男達に声をかける。


「この者は問題ない。みんなすまんがしばらく離れる。作業を続けていてくれ」

そう言ってベノスを伴って敷地の中の、作業人がいない場所に移動した。


──マイザとベノスは10歳ほど歳の差がある。

ベノスが7歳の時、父ラドーの跡継ぎとなるべく商業や貿易のイロハを学ぶため、ラドーが懇意にしている豪商の元へ修業に出された。10年近い修業期間を経てラドーの思惑通り様々なコネクションを構築していたマイザは、ラドーの右腕としてディメナード家の商売に携わる予定であったが、その矢先に起きたのがベノスの事件だ。王国関係筋の取引はほとんど失われ、体調を崩し床に伏せることが多くなったラドーに代わり、マイザはディメナード家の立て直しに奔走していた。幸い、マイザの持つコネクションが他国の商人が多かったためなんとか没落の憂き目を免れることができたようだった。


「父上や屋敷の者達は?」

ベノスの問いかけに静かに答えるマイザ。

「父上を含めて屋敷にいた者は全て死んだよ。全員黒コゲで誰が誰かは判別はできなかったが。取引で遠方にいた私が到着したのはブラックドラゴンの襲撃の3日後ですでに屋敷は焼け落ちていた。」

父ラドーのことより、優しかったリントンら使用人たちの顔がベノスの脳裏に浮かぶ。彼らの死に沈痛な表情を浮かべた。

「そうか…」


「…あと、義母のエノワはお前が家を飛び出した後、父上と離縁して故郷に帰り、その後は便りもない。故郷はノーザンブローと言っていたから恐らく生きてはいるだろうが」

エノワはベノスとマイザの実母が亡くなった後、後妻としてディメナード家にやってきた。陽気な女性でベノスらとの関係も良好だったが、ディメナード家の財産が目当てなのは誰の目から見ても明らかだった。ベノスのせいで傾きかけた家柄を見限ったのだろう。


「これまで一体どこに?死んだと聞いていたぞ」

少し落ち着いたマイザはあらためてこれまでの経緯を聞き出す。

「ここを離れた後、ある村に辿り着きそこで新たな友人や生活を得ることが出来た。その友人達の図らいで死を偽装してもらったんだ」

「死を偽装って…大丈夫なのかその連中は。おかしなことに関わっているんじゃあ…」

「はは、善良な連中だよ。俺には勿体無いくらいいい奴らだ。一緒にモンスター退治をしているんだ」

そこまで言うとベノスの表情は曇った。そうだ、彼らはもう…。ヘキオン村の惨状を思い出し、悲しみが突如押し寄せる。そしてあらためて自分がすべきことを再認識した。

「…そう、今俺はその者たちの弔いのために、王都へ向かっている」

その言葉にマイザは驚き思わず声を上げた。

「王都?!今どういう事になっているか知らんわけじゃあるまい?!」

「もちろん」

ベノスの眼差しから強い決意を感じるマイザ。

しかしブラックドラゴンの群勢による各地の惨劇と、メレラの鏡面を通した世界に向けた演説を目の当たりにし、他の多くの民衆と同様にマイザも思いこんでいる。もはや自分達になす術はないと。そして諭すようにベノスに語りかける。


「英雄を気取りたいならやめるんだ。あれは一個人の力でどうこうできるようなことではない。…私と一緒に来いベノス。周辺国はメレラとの戦いに備えていると聞く。より激しい戦乱が起こる前にハーズメリアを出るんだ。すでに安全な場所は手配してある」

まるで子どもを叱る親のような表情で見つめるマイザ。


「兄さん、俺は英雄になろうなんて気はさらさらない。ただ大事なものを全て奪われたままひとり安全なところに逃げ仰ようなんて気もない。あいつらには何としても一太刀浴びせないと気がすまないんだよ。それにな…」

ザンデロスから譲り受けた魔法の剣の刃を出して見せる。


「なっ…?!なんだ、その剣は?」

見たこともない不思議な剣に目を丸くするマイザ。


「俺は沢山の経験や武器を得た。共に王都へ向かう友人もいる。勝機は充分にある。10年前のような子どもじゃない」

それでもマイザは食い下がり、

「少しばかりモンスターを退治したくらいで19かそこらのガキがなにを言う!お前はまだまだ生きなきゃならん!」

と怒鳴りつけるマイザにベノスは笑みを浮かべる。

「死ぬ気なんてこれっぽっちもないぜ?奴らを倒して必ず戻るつもりだ」

ぐぐ…と歯噛みするマイザ。

そして、ふうとため息をつくと諦めたような態度でベノスに言う。

「…わかった。だが戻ったら必ず私に顔を見せろよ。いいな?」


「ああ。必ず。それまで兄さんこそ無事にな」

ベノスがそう言うとマイザはこれまで誰にも話すことはなかった胸の内を話しだす。


「母上を病気で亡くした時…家族に何の関心もない父上に代わってまだ幼かったお前を立派な大人に成長させる決心をしたのを今でも覚えている。…だが父上に決められた道に背くことも出来ず、家とお前から長い期間離れることになってしまい今でもそれ悔やんでいる。そばにいてやれればお前は道を踏み外すことなかったかもしれないと。お前が家を飛び出した後…父上はお前のことを一切話すことはなかった。お前のことを悪く言う者たちも大勢いた。だが私は…お前をディメナード家の恥や汚点だなどと思ったことはただの一度もない。いつだって大切に思っていた。…ただ腹は立ったがな。なぜ私を頼らなかったんだと」


それを聞いたベノスもマイザに本心を明かす。

「兄さんは家にも俺にも興味がないものとばかり思っていた…父上にはあしらわれ、継母のエノワは母と呼べるような人ではなかった。小さい頃から俺は…心の拠り所となるような者は誰もいないとずっと感じていた。だが俺にも家族はちゃんといたんだな」

そんな言葉にマイザは

「幼かったお前を孤独にさせてすまなかった。だがこれからはいつでも遠慮なく頼って来い」

と偽りない気持ちを伝えた。


「不安だったのは兄さんも同じだろ。その気持ちだけで充分だ」と言うベノスに、マイザは

「さっき言った安全な場所には結婚を約束した人もいる。ぜひ会わせたいから必ず来るんだぞ?」

と強く念を押す。


「いいのか?殺人未遂の逃亡者で世間的には死んでるんだぞ?」

笑って言うベノスに

「ははは、あいつも苦労人だからな。そんなこと気にせず笑顔で迎えてくれるさ」

とマイザは答えた。


「そろそろ行くよ。待たせてるんでな」

そう言うベノスに

「ああ。帰って来いよ。必ずな」

と強く握手を交わし、ベノスは焼け落ちたディメナード邸を後にした。


ザンデロスが休憩するところまで1人歩くベノス。


だが目の前の空間が突如歪み出す。

以前にも見たその光景。これはまさか…。


「あははは!ディメナードの屋敷も監視しておいて正解だったわ♪」

空間の歪みからディアボリカと、従者ゾゴムが姿を現した。


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