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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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飛翔する白竜

薄っすら辺りが白みだした早朝。

ベノスとザンデロスは身支度を整え出発の準備をする。


「昨日行った通り、今日から白竜化し飛行移動だ。ドラゴンの背中に乗ったことは?」

「あるはずない」

「だろうな」

軽い口調でやりとりする2人。


「俺を乗せて飛行の負担にはならないのか?」

と質問するベノスに、

「お前1人乗ったところでどうと言うことはない。魔力の状況を見ながら飛行するが、それでも馬より相当距離は稼げるぜ。馬ならたしかあと5日はかかる道のりだったな。だったら休み休みでも明日中にはハーズメリア王都に着くだろう」

白竜の飛行スピードに自信があるのか平然と言ってのけるザンデロス。


「その前に、お前に渡しとく物がある。…えーっとどこやったっけな」

ザンデロスは上着やズボンのポケットを乱暴にまさぐる。そしてようやく取り出したのはクシャクシャに丸められた布切れと、竜の形をした剣の柄の部分だった。


「今日からお前らの持ち主はベノスだ。しっかりやれよ」

布切れと柄にそう呟くとそれをベノスに手渡した。

よくわからない物を渡されたきょとんとするベノス。


「これは?」

「ドラグガルドを旅立つ時、装備品として下臣たちから渡された物だが俺は結局一度も使うことがなくてな。お前にやるよ。ま、とりあえずシワを伸ばすように布を広げてみな」

言われる通りに布を広げると、ブワッと布は大きくなってベノスをひとりでに包み込む。それは大きな竜の紋章があしらわれたマントだった。

「よし、次はその柄の赤い石を強く押すんだ。力一杯な」

装飾の赤い石を強く押すと、静かに発光する白銀の巨大な刃が姿を現す。

大太刀に関わらず重さはまるで感じない。


「すごい…マジックアイテムか?!いいのか?こんなものを借りても」

驚くベノスにザンデロスは、

「いや、貸すんじゃない、くれてやるって。お前今、手持ちの武器は短剣だけだろ。メレラに支配された王都に近づけば剣一本調達するのも難しくなるだろうし。…それにさっきもいったがそいつを使う機会はもうなさそうだからな。俺の場合、魔力を込めてぶん殴った方が早いし強え」

持っているだけでビリビリと込められた魔力が感じられる大剣をふるうより、自前の魔力で“殴る”方が手っ取り早いというザンデロスの軽いひと言から、ベノスを遥かに上回る戦闘能力が伺い知れる。


「…ありがとう。大切にする」

「ははは、お前には道中色々ご馳走になったからな。鳥肉のスープに木の葉で巻いて焼いた魚に、あのぶどう酒。あんな美味い物がこの道すがら食えると思ってなかったぜ」

この6日ほどの旅では、料理などが不得手なザンデロスにかわりベノスが食事を用意していた。ぶどう酒はベッカーから親交の品としてもらったものだし、その辺で捕まえた鳥や魚に持参していたヘキオン村の特産品である料理スパイスを適当に加え焼いたり煮たりしただけのものだが、ザンデロスはそれらがいたく気に入ったようだった。


「ふふ、あれでいいならいつでも振る舞うぞ。まだ少し旅も続くしな」

微笑みかえすベノスにザンデロスも喜ぶ。

「時間が許せばのんびり旅を続けたいが、メレラのクソ野郎もぶちのめしたいしな。さっさと終わらせて派手に宴を開こうぜベノス!」

そういうと白竜化するザンデロス。


「乗せる前に頼みがある。もし前みたいにブラックドラゴンが群れをなして襲撃してきたらお前に後ろを任せたい。あの程度の奴らなら、お前の剣の腕前にその剣がありゃ問題ないはずだ」

ザンデロスはベノスが戦う姿を直接見ていないが、旅の中でのベノスの振る舞いから“出来る”ヤツだと見抜いていたようだった。

「承知した。お前の背後は必ず守る」

「よーし、頼んだぜドラゴンライダー!」


ベノスがザンデロスの背中にまたがると、予備動作もなく一気に空高く上昇、風のように空を駆けていった。


──ハーズメリア戦士団に救出されたジロッサとわずかな生存者達は、時おり空を飛び交うブラックドラゴンに警戒しながら移動を進め、戦士団の案内で王都からはるか南西のある山深い村にようやく辿り着いた。

そこには他にも沢山の避難者がおり、白いローブのもの達が炊き出しを行うなどしていた。

ブラックドラゴンの大群の侵攻ルートから外れていたため村はほぼ無傷で、ブラックドラゴンもまだここまでは襲撃範囲を広げていないようだった。


「まだ無事な場所があったのか」

そういって辺りを見回すジロッサの目によく知った顔が現れた。

「ジロッサ、無事だったか」


なんと騎士団少年部の同期生で、行軍演習をともにしたカムラだっだ。

「カムラ!無事だったのか!」

意外な再会に喜ぶジロッサ。


数ヶ月前の正規騎士団入りの最終選考。


メレラ討伐に旅立ったため最終選考を待たずして少年部を抜けたラブロウに加え、それを手助けするため同じく少年部を抜けることになったジロッサとピットー。残った10人にも満たないメンバーで行われた選考は、ベノスによる暗殺未遂の件もあり例年より厳しく適性を測られることになった。

結果、正規騎士団に合格したのはカムラたったひとりだった。


だがカムラは、危険なモンスターが出没しはじめた自身の故郷の村を守るため帰郷することを決意しこれを辞退。

正規騎士団入りする者はゼロとなってしまった。


今ジロッサ達が辿り着いた村こそ、カムラが帰った故郷の村だったのだ。


「カムラ、ジロッサと一緒にわずかだが生存者も救い出せた。また世話になるぜ」

声をかけてきたメキシオに言葉少なに返すカムラ。

「…ああ。そっちも大変だったな」

このような状況下でもあるためメキシオやスラドルに対し過去のわだかまりはない様子のカムラだったが、それより気になることがあるようだった。


「ジロッサ、少しいいか」

到着して早々、ジロッサをひと気のない場所に連れ出すカムラ。

「…ラブロウとピットーは?」

カムラの問いに静かに答えるジロッサ。


「メレラの例の演説は見たよな?でもラブロウはまだ生きてるんだ。救出は困難な状況ではあるが…。ピットーは今こっちに向かってる。あとでこの村のことも“遠話”で伝えるよ」

それを聞いたカムラは神妙な顔で考え込む。


「そうか。生きているならよかった。…ピットーのことだがな…ここには来させない方がいいかも知れん」

その言葉にジロッサは訝しむ。

「え?なぜだ?」


少し間をおいてカムラが言う。

「あの白いローブの連中だ。戦士団と共にここを訪れ、避難地として場所を貸してほしいと言ってきてな。こんな時だ、断る理由もない。彼らも献身的だし悪意は感じない。だが…何かおかしい」


ジロッサも口には出さなかったが、村に着いてあの白ローブを見てすぐ勘づいていた。

…“光の手”教団。

ジロッサも、よくある聞こえの良い平和を謳う連中だろうという認識だったし、こんな時だから彼らも奉仕活動を行うだろうと特に気に留めなかったが…遠目から戦士団と教団の者達のやりとりを見ると以前から知った間柄のような雰囲気がある。

たしかに…教団とは対極の存在ともいうような戦いを求める荒くれ者の戦士団が、どこで出会い、いつから協力関係に?

ドラゴンのブレスを防いだ戦士達の纏うローブや、ドラゴンの強靭な鱗も切り裂く異様な武器。ハーズメリア王国府があんなものを支給する訳がない。

教団から供与された物?だとしたらあれを保持しているような信奉集団とは一体…。


そしてカムラが語る違和感。

ジロッサの中にも少しずつ不安が渦巻いていた。


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