選ばれし者の御技
メレラによる鏡面を通した全世界への侵攻宣言より5日。
ベノスとザンデロスは王都への行路を進んでいた。
ヘキオン周辺から王都まではかなりの長旅だ。
旅の中、お互いのことを色々と話し交流を深める2人。
その日の晩、野営の焚き火を囲みながらついにベノスは覚悟を決めザンデロスにラブロウとの過去を打ち明けた。
ザンデロスは驚き、大笑いした。
「えぇえ?ウソだろ?!ラブロウから聞いた事あるぞその話!お前が?あの例の?!マジかよwwだぁっはっはっは!!」
予想外の反応にベノスは呆気にとられた。何なら、軽蔑の眼差しを向けられザンデロスとの旅もここで終わるかもしれないとさえ思っていたからだ。
「…思うところは、ないのか?」
ベノスは不思議そうに尋ねる。
「昔聞いた話がこんなところで繋がるんだぜ?!笑わずにいられるか。ぶわっはっはっは!」
ベノスはザンデロスの反応に安堵した。何か胸のつかえが取れたような様子のベノスに、ザンデロスは語りかける。
「…お前が今もラブロウに敵対心や憎しみを抱いてるようなら多少は警戒もするが…ベノス、お前その事で国を追われたんだったな確か。それからあの村に行き着いてあらたな友人達とあらたな生活を送ってたんなら、もうそんな事は考えちゃいないだろ?じゃあ俺は特に気にはしねえさ、過ぎた過去のいきさつは。それにわだかまりがあんならは当人同士で解決するこった」
ザンデロスが熱い性格だと思いこんでいたベノスは考えを聞き、寛容で柔軟な人物だったんだなと彼への認識をあらためた。
「明日も早えんだ、さっさと寝るかあ」
あくびをしながら言うザンデロスに、ベノスは今後の旅での懸念を話す。
「この数日の酷使で馬たちが疲弊している。少しペースを落とさないといけない」
「ドラグガルドと違い外界の馬ってのはヤワだな。ま、心配はいらんぜ」
そう言うとザンデロスは立ち上がり、静かに目を閉じた。
ザンデロスの周りを巨大なオーラが包み込んだかと思うと、みるみる白竜の姿に変化した。
「おお…!」
ベノスは思わず声を出す。あらためて間近で見るそれはとてつもなく神々しい。畏れを抱き平伏してしまいそうな姿だ。
すぐに変身を解き人間の姿に戻るザンデロスは
「本調子ではないがかなり魔力が戻ってきた。明日以降は白竜の姿で飛行移動しよう。相当な短縮になるはずだ」
と、ニヤリと笑いベノスに言った。
「しかし数日の温存だけでまた白竜の姿で飛行などして大丈夫なのか?」
ベノスは心配して尋ねるが
「心配するな、無茶なことはせん。1時間かっ飛ばすだけでも馬の何十倍も移動距離を稼げるしな。ただ相当スピード出すから、俺の背中から振り落とされんじゃないぞ」
そういうとゴロンと横になってすぐに眠ってしまった。
(ドラゴンの背中に乗って空を飛ぶのか…なかなか経験できることじゃないな)
子どものようなワクワクと少しの不安を抱きながらベノスも眠りについた。
──ソザリア中央塔・研究室では、異空間の中で意識不明の状態のラブロウの監視が続いている。
「うーん、すごいなこれ…」
ラブロウを包む魔力殻装はいまや巨大な人型となっていた。ラブロウの無事を心配すると同時に最終的にこれがどうなるのか不安を抱くネネルだった。
その時、巨大な人型の魔力殻装が突然こちらの方に顔を向けた。
「えぇ?!」
ネネルが驚くや否や、眼と思しき部分から閃光を放たれた。
監視用の魔法の鏡から目も開けられないほどの光が溢れ、割れ砕け散った。
魔法研究のエキスパートであり防御結界のスペシャリストであるネネルは一瞬で結界を張り、飛散した鏡の破片を防ぐ。
騒然とする研究室の魔導士達。
「な…なんなの?!」
ネネルは呆然としながらその場に座り込んでしまった。
一方、魔力殻装修得のため修練室に篭るキアヒナ。
修練を見守る魔導士達から声があがる。
「おぉ…!これは」
キアヒナの周囲を包んだ魔力は、翼を広げた鳥のようなものを形づくる。
しかしすぐ魔力はしぼみ、キアヒナはその場に倒れ込む。駆け寄る魔導士達。
「す、すごいぞキアヒナ!こんな超高等魔術をたった1週間で!」
「これで…ラブロウを助けに…」
そう言うと膨大な魔力のコントロールを長時間続けていたキアヒナは気を失ってしまった。




