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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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生存者

異空間に放逐されたラブロウが発見され丸1日が経った。

ソザリアの魔導師たちがザンデロスの魔力の痕跡を探知し捜索を行っているが行方は杳として掴めていない。

キアヒナはラブロウ救出のため、ソザリア中央塔内の修練室に篭り自身の能力を大幅に強化する魔法“魔力殻装”を修得しようとしていたが、困難を極めていた。


キアヒナの魔法修得に協力していた数人の魔導師達は決死の修練を積む彼女を心配そうに見つめる。

「キアヒナ…気持ちはわかるが、無理はいかん。そもそも1日2日で修得できるような魔法では…」

「わかってるよそんな事。じゃあラブロウが異空間で少しずつ弱ってく様子を何もせず見とけって言うの?」

キアヒナは修練で魔力を大量に消費し真っ青になった顔で周りの魔導師たちに強い眼差しを向けた。

ここ数日の無理がたたり、キアヒナの美しく整った顔はすっかりやつれている。

そんなキアヒナを哀しい表情で無言のまま見る魔導師たち。

「…続けるから黙って手伝って」

キアヒナは再び修練を再開する。


(ザンデロスはこんな難しいこと当たり前みたいにやってたの?信じられない)

キアヒナはザンデロスの凄さをあらためて感じながら修練を行う。


そこへ異空間のラブロウの監視を続けるネネルが部屋に飛び込んできた。

「キアヒナ…ラブロウの様子が」

キアヒナはガクンと崩れ落ちた。

「…そんな…

…間に合わなかった」

部屋に絶望的な空気が流れる中、ネネルが切り出す。

「い、いやキアヒナ。逆です」

「…“逆”?」


異空間のラブロウの監視を行なっている研究室にやってきたキアヒナら一同。

「昨日より明らかに大きくなってるんですよ。ラブロウが纏う魔力殻装が」

一際大きな鏡面に魔法で映し出されたラブロウの姿。確かにラブロウを守るように包む魔力はひとまわりくらい大きくなり、脈動を行なっている。


「これは…どういうこと…?精霊の集う地や大地の竜脈みたいなエネルギースポットで魔力が高まるならともかく、こんな空気も光も時の流れもない場所で」

キアヒナも驚きを隠せない。

「ラブロウの光の力の高まり方って…私たちインネイトのそれと同じように考えない方がいいのかも」

ラブロウの姿に息をのむ一同であった。



──メレラがハーズメリアを落城し3日が経過。王都は地獄の様相を呈していた。


大量のブラックドラゴンが城の周囲を昼夜問わず飛び回り、侵攻の初日に殺戮と破壊の限りが尽くされた王都には人間はひとりも残っていない。


王都から十数キロ離れた山中。

林の中でなんとか逃げ延びることができた者達が息を潜めて隠れている。

その中に、怪我人の手当てや体調の悪そうな者に声をかけるなど忙しなく動き回る青年がいた。

「水ですか?わかりました。薬もあとでお持ちしますよ」


騎士団少年部でベノス・ラブロウと同期生だったジロッサだ。ラブロウ支援団の結成者にして総責任者を務めるジロッサは、騎士団少年部に在籍していた頃のプライドばかり高いお坊ちゃんぶりはすっかりなくなり、幾分たくましい顔つきなって献身的な態度や物腰で人々に接している。


メレラ侵攻の日、たまたま王都を離れていたため

難を逃れたジロッサ。

幸運にもブラックドラゴンの襲撃から逃れることができた20人ほどを王都外で発見、その者らを連れて山中へ一時避難させることができた。しかしハーズメリア王都周囲を広範囲で飛び回るブラックドラゴンが現れ始め、身動きがとれなくなってしまっていた。


ジロッサの声かけにも生き残った人々の返事の声は弱々しい。皆、ブラックドラゴンの襲撃に恐怖し絶望の表情を浮かべていた。


ジロッサの上着の懐から明滅する光が漏れる。人々からそっと離れ、懐の鏡を取り出す。“遠話”用の鏡である。

「…ピットーか。」

ピットーからの連絡に少しばかり安堵するジロッサ。


「ジロッサ、そっちはどうだい?」

「生存者を南部の支援団施設まで避難させようとしていたんだが、ブラックドラゴンどもが定期的に周回しはじめて身動きがとれなくなってしまってな。」

ピットーは何とか安心させようと

「あと2、3日でそっちに到着できそうだ。物資は沢山あるし支援団は万全の体制で向かうから頑張って持ち堪えてくれよ。君なら出来るだろ!」

と、ジロッサに言う。


「あぁ、何とかする。何とかするさ」

そう言って2人は遠話を終えた。

ジロッサは疲れ切った表情でひとり座り込んだ。


ジロッサ自身もメレラの王都襲撃で沢山のものを失ってしまった。

自身の邸宅、両親、支援団に関わる多くの仲間。


財を失った彼に今後支援団を維持することはできないだろう。それ以前に、支援すべき光の勇者ラブロウも生死不明。

先の見えない状況に憔悴していた。


その時、林の外で見張りをしていた男が血相を変えて戻ってきた。

「ブラックドラゴンが一匹こっちに急降下してきた!」

その声とともに場は一気に混乱状態に陥る。


「負傷している人に誰か手を貸してやってくれ!」

ジロッサの声を聞く者などいなかった。動ける者は我先にと他の者を置いて逃げ出していく。

ジロッサは覚悟を決め、荷物の中からいくつかのマジックアイテムを取り出しブラックドラゴンを食い止めるため林の外へ駆け出る。


一匹のブラックドラゴンが旋風と共にジロッサの目の前に舞い降りた。


「食らえ!」

ジロッサは十数枚の符を周囲にばら撒く。符は魔法の矢となってブラックドラゴンに降り注ぐ。


…だがブラックドラゴンの鱗には傷ひとつつける事ができなかった。

ぶるっと身体を震わせると、ブラックドラゴンはあしらうように尻尾でジロッサを弾き飛ばした。

前足で首もとを掻きながらフンと鼻をならす。明らかに遊んでいるようだった。


吹っ飛ばされたジロッサは身体がバラバラになりそうな衝撃を受け立つことも出来ない。

それでもなんとか腕だけを動かして懐からさらに魔法の符をとりだす。

「ただで死ぬもんか…!」

震えながらブラックドラゴンを睨みつけるジロッサ。


その時、何者かが飛び出しブラックドラゴンの長い首に斬撃を加えた。


ギャオオオオ!と咆哮をあげるブラックドラゴン。体勢を立て直し、斬りつけてきた何者かに炎のブレスを吐いた。


激しい炎に包まれるも、燃え上がるどころかその者が纏うローブには焦げあとひとつついていない。


後から続々と現れる者たち。一様に白いローブを纏って目深にフードを被り、それぞれ純白のローブに似つかわしくない漆黒の禍々しい大太刀や大槍を携えている。

武器を構えると同時に、一斉にブラックドラゴンに攻撃をしかける。


ブラックドラゴンも鋭い牙や爪で応戦。だが彼らの武器は予想以上にダメージを与えており、激闘の末ブラックドラゴンを打ち倒した。


ジロッサは痛みに耐えながら上半身をなんとか起こして問いかけた。

「あ、あなたたちは…?」


白いローブの一団の中の2人が、フードをとりながらジロッサに声をかける。

「おいジロッサ!ブラックドラゴンにたったひとりで立ち向かうなんて根性あるじゃねーか!」


その顔にジロッサは驚く。

「メキシオ?!スラドル?!」


ジロッサを救ったのは、モンスター討伐で遠方に出向き王都を離れていたハーズメリア戦士団だった。


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