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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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絶望の業火

「──ベノスの行方が?」

キャンドルが数本立てられた薄暗い部屋。ソファに足を投げだして本を読むディアボリカは横目でゾゴムを見ながら聞き返した。


「…は。お嬢様もご存知の通り、魔法による行動追跡は他者の強い魔力に大変干渉されやすいものでございます。ドワーフの遺跡から出た辺りで何者かの強い魔力に触れ寸断されてしまいました。以降、再追跡を試みましたが行方は掴めておりません」

ゾゴムは表情を崩すことなくディアボリカに報告する。


ディアボリカは真っ赤な飲み物の入ったグラスを回しながらため息をつく。

「残念だわ…近いうちに彼をここに招こうと思ってたのに…。そうだ!彼の住んでいた村は?あの辺鄙な。あそこには?」

「お嬢様、実は…」



──村を包む火の手は、かなり遠くからでも認識できるほど大きく立ち昇っていた。

ベノスの不安は的中し、ヘキオン村もブラックドラゴンの群れに襲撃を受けたようだった。


ベノスは駆ける馬の息が荒くなっているのも気に止めず必死で馬に鞭を入れる。

「…頼む!皆命だけはなんとか…!!」

村の中心地には到底近づけないほど、村や周囲の林は燃え盛っていた。

馬を降り、地獄のような業火の前に呆然と立ち尽くすベノス。追いついたザンデロスも馬を降りその光景に目を伏せた。

「…すまん。俺が奴らの進攻を食い止めることができていれば…!!」

ベノスは無言で燃え盛る村に足を踏み入れようとする。腕を掴み止めるザンデロス。

「よせ。無駄だ」

ベノスはザンデロスの手を振り払おうとするがビクともしない。その細身の身体からは想像も出来ない腕力だった。

「生きて助けを待っている者がいたらどうする?!」

ベノスは声を荒げる。

同じくらい大きい声でベノスを諌めるザンデロス。

「この先に生きているものはおらん!」


「なぜわかる?!」

「俺にわからんと思うか?!…残念だが炎の中に人間の息使いも心臓の鼓動も聞こえんのだ!」

巨大な竜に変化し、容易く馬を呼び寄せたザンデロスの力を目の当たりにしたベノスには充分説得力のある言葉だった。


力無く座り込むベノス。

アフの診療所のあった林の奥、そしてヘキオンズコープスのベースハウスのある村外れの方にも轟轟と炎と煙が上がっている。民家、ひと気のある場所は徹底的に襲撃されているようだった。


「…ここを離れようベノス。ブラックドラゴンのブレスは魔力を含んでいる。家や木々が灰になってもしばらくは鎮火しない」

ベノスを強引に立たせて、ザンデロスとベノスは馬を引いてその場を後にした。



──日がのぼり始めたソザリアの中央塔。

研究室のひとつから大声がこだまする。

「いたいたいたぁぁぁあ!!」

部屋を飛び出した眼鏡の女性は全速力で廊下を駆ける。


ピットーにハーズメリア壊滅の報を伝えたキアヒナは、ひとり司令室で沈痛な表情のまま一点を見つめ考え込んでいた。


メレラ侵攻前、ソザリアで神の子と持て囃され生活していたキアヒナ。周りからの称賛に、ある種の万能感を抱いていた。自分に不可能なことなどなにもないと。

しかしこれまでの旅ではラブロウとザンデロスに救われることばかりだった。

そして今も、メレラの行動を阻止できずハーズメリアの壊滅を許してしまい、ラブロウとザンデロスの行方を掴むことも出来ない。もしメレラが戻ってきたら…と恐怖心をいだいている。

誰も救えず何もできない自身の無力さがあまりに情けなく、思わず涙が溢れた。

2人に早く戻ってきてほしい。2人に会いたい。

ラブロウ、ザンデロス両名が不在の今、みんなから頼られ気丈に振る舞っていたが不安で押しつぶされそうだった。


そこへ研究室の女性が駆け込んでくる。

「キアヒナ!ラブロウを見つけました!」

「えぇ?!本当?!ネネル!」


眼鏡をかけた女魔導士のネネルと共に研究室に急ぐキアヒナ。


“遠話”用の鏡に映し出された真っ暗闇の空間に浮かぶラブロウの姿。ラブロウの周囲は魔力で包まれ、それは微かに膨張と収縮をしている。

ラブロウは意識を失っているのか眠っているのか、目を閉じている。しかし胸が呼吸で上下するのがはっきりわかる。


「よかったぁ…ラブロウ…」

涙をこぼすキアヒナ。

「ラブロウがシグナルを送っているので発見は容易でした。異空間の扉を開けることもそう時間はかかりません。…だけど問題がひとつ…。“魔力殻装”、自身を魔力で包み込み能力強化を行える者でないと、異空間に足を踏み入れた瞬間に死にます」

ネネルははっきりと報告をする。

キアヒナは涙をぬぐいネネルに問う。

「それを行える者って…」


「思い当たるのは、白竜変化の魔力殻装が行えるザンデロスくらいしかいないです」

はっきりと答えるネネルに少し間を置くキアヒナ。


「…ラブロウはどれくらい持ちそうなの?」

「それはなんとも。今ラブロウも“魔力殻装”とほぼ同じことをしています。昔の文献に“魔力殻装”をどれくらい維持できるか試したことがあったらしいのですが、それによると頑張って2日程度だと」

ネネルは渋い顔で答えた。


キアヒナは

「全力を挙げてザンデロスを探すわ。それと並行して私も“魔力殻装”を習得する」

とネネルや周りの魔導士達に宣言する。

「えぇぇ?!“魔力殻装”は超高等魔法のひとつですよぉ?!そんな1日2日で…」

驚くネネルにキアヒナは

「絶対にやる。なんとしても…」

と覚悟を決めて答える。


その時、“遠話”用の鏡に突如、ひとりの男の顔が映し出された。


“遠話”用の鏡だけではない。窓ガラス、ピカピカに研がれた刃物、子どものおもちゃの手鏡、コップに注がれた水の水面、道端の水たまり。世界中のありとあらゆる光を反射し物像を映す鏡面に、その顔は映し出された。


「ご機嫌よう、世界の諸君!」


キアヒナはその顔を見て凍りつく。

「─メ…、メレラ?!」


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