騎士団少年部行軍演習①
ドロック山行軍演習。
4つの班はそれぞれ別ルートで時間を置いて出発する。
ベノスの班は3番目に出発、ラブロウの班はその次の4番目。勿論この出発順もベノスの指示だ。少年部の中に異論を唱える者はいない。
ベノスは帰郷期間中、過去のドロック山での行軍記録を資料室から持ち帰り山の地形や出没する魔獣について調べ上げた。
ドロック山の魔獣・フンババ。雄牛の体躯と角、肉食獣の様な牙をもつ鬼面の恐ろしいモンスターだ。
しかし人間への警戒心は強く、積極的に人間に近づいてくることはない。これまでのドロック山での訓練でも目撃は数例、いずれも遠巻きに発見したもののむこうが逃げ出してしまったという。危険にはかわりないが今では目撃できたら逆にラッキーくらいの扱いになっていた。
当初、ラブロウが亡霊退治をしたように自分もモンスターの一匹二匹倒して…と考えていたもののこれでは見つけることも難しい。そう考えながらモンスターに関する文献を調べていると、フンババのある習性を発見した。
街の花屋などで普通に売られているがドロック山には自生していないある花のにおいにとても敏感で、そのにおいに寄ってくるというのだ。しかも興奮状態で。
…これは利用できる。俺がモンスターを退治するなんて危険をおかさなくてもラブロウをうまく陥れることができるかも。屋敷の者を使いその花をすぐ取り寄せさせた。
出発前にジロッサの荷物に忍ばせたのはもちろん乾燥させたその花だ。さらに念を入れ、その花を数日漬け込んだ水をラブロウ達も通るドロック山の行軍ルートにばら撒いた。あまい花のかおりのする泥水を踏みつけた靴でラブロウ達はさらに山道に入っていく。
事前にドロック山の地理地形をしっかり調べていたベノス班のチェックポイント通過はかなり早く、他の班が夜も迫る中疲れ切った身体で慌てて野営準備にかかっていた時にはすでに食事も済ませて3人ともゆっくりくつろいでいた。
「あー、魔法猿どもどうなってんのかなぁ。楽しみで仕方ねえ」
うすら笑いを浮かべながらスラドルは仕掛けたフンババのおびき寄せ工作がうまくいったかどうかが気になって仕方ない様子だった。
「まぁフンババが出てこなかったとしても、ジロッサのバカと同班でタダですむハズないもんな。明日が待ち遠しいぜ」
メキシオはむしろジロッサが班を引っ掻きまわすという現実的なトラブルの発生に期待をしているようだった。
「フフフ…こんな美しい自然の中ならもし死んだとしても本望ってもんだろ?」
ベノスの呟きに呼応したスラドルとメキシオの下品な笑い声が静かな森の中にこだましていた一方…
ベノス達の予想通り、ラブロウたちの班はジロッサに振り回された挙げ句、チェックポイントにすら辿りつけないまま月明かりに照らされた山道をひたすら歩いていた。いや、完全に遭難していた。




