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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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58/115

ドラゴン強襲

「なっ…!なんて数だ…」

ベノスはとんでもない数のドラゴンに驚愕し息を飲んだ。


押し寄せる漆黒の大群の中から、ドラゴンが二匹急降下してくる。明らかにベノスの乗る馬車を狙って。


「ひいぃっっ!」

馬車の主が悲鳴をあげた次の瞬間、ドラゴンは口から炎の塊を吐き出した。


炎が直撃した馬車は一瞬で燃え盛る。ベノスは一瞬早く馬車から飛び降り難を逃れた。

「ぐぁあっ!」

荷物ごとゴロゴロと荒れた道に転んだベノスだったがすぐさま立ち上がり体勢を立て直す。


二匹のドラゴンは燃える馬車を押し潰しながら着陸し、火だるまの馬と馬車の主を食いちぎり貪った。


ベノスは剣を抜いて構えるものの、少しずつ後ずさりする。

(ダメだ…さすがにコイツらはヤバい!)


間近で見るドラゴンの体躯は二匹ともアフの診療所にいるヘルハウンドのエンリスとほぼ同じくらいかやや大きいといったところだった。

ベノスは以前、ジャルガからドラゴンを目撃した時の話を聞いたことがあった。平均的な村の民家2〜3軒分くらいの大きさだったと言っていたことを考えると…コイツらもしかしてまだ幼体か?…だとしても、勝算はなどまるで見えん、と、考えを巡らせていたその時。

二匹はベノスに向かって飛びかかってきた。


横っ飛びで二匹の突進をかわし再び向き直るベノス。

二匹は揉みくちゃになりながら長い首をベノスの方に向けて炎を吐き出した。


素早く転がりなんとか直撃を免れるも周囲は凄まじい爆炎が広がる。

「一撃でアウトだぞクソッタレ!」

ベノスはやけっぱちで叫ぶ。


ドラゴンは2発目、3発目と連続で炎を吐く。

この絶体絶命の中、ベノスはそれでも冷静に炎の塊の弾道を見極めかわし続ける。しかし──


二匹いたドラゴンのうち、一匹がベノスのスキをつき視界から消えていた。

どこへ…⁈


大きな影がベノスを覆う。

一匹のドラゴンが宙から鋭い爪でベノスに襲いかかろうとしていた。


「らぁぁあぁ!」

ベノスがかつてない力を込めふるった剣は、なんとかドラゴンの爪をはじいた。

…だが剣は真ん中から無惨に折れてしまっていた。

かつてゴブリン退治の礼にと譲り受けた業物で、手入れを重ね使い続けていたがこれまでどんなモンスター相手でも致命的な刃こぼれや傷がつくことはなかった。

それがいとも容易く…。


すぐさま腰に身につけていた短剣を抜くベノス。もちろんこんなものが役に立つはずもないことはわかっていた。


唸り声をあげじりじりと距離を詰めるドラゴン。後方のもう一匹の口からは炎がもれ、再度火炎を吐き出そうとしている。


「…八つ裂きにされて息絶えるまでに、短剣ひとつでドラゴン相手にどれだけ手傷を負わせることができるか…試してやるさ」

ベノスは死を覚悟し、自嘲気味に笑みを浮かべた。


──だが二匹のドラゴンは突如、静止し宙を見上げる。


突然のことにベノスも驚いたが、警戒を緩めずドラゴン達が見つめる方角に目をやった。

すでに黒いドラゴンの群勢ははるか西へと飛び去っていたが、また東の空から何かがこちらの方角に向かってくる。


先ほどの群れとは明らかに様子が違う。


━━なんと、一匹の“白い”ドラゴンが数十匹の黒いドラゴンと空中戦を繰り広げながら飛行してきたのだ。


ベノスを襲っていた二匹の黒いドラゴンは標的をその白いドラゴンに変え、大きく吠えながら飛び立った。


黒いドラゴン達の5倍から6倍はあろうかと思われる体躯の白いドラゴンは、小型の黒いドラゴン達を牙や爪、光り輝くブレスで一匹また一匹と屠りながら飛行を続けた。

ズタズタになった黒いドラゴンが次々と空から落下してくる。


ベノスを襲ってきたドラゴン達も、白いドラゴンにあっさりと食いちぎられ、近くの林に落ちて行った。


残り数匹というところで、力が費えてしまったのか白いドラゴンの滞空高度が徐々に下がり始める。


残りの黒いドラゴンを爪や尻尾で無理矢理抱え込んで締め上げ、バキバキと黒いドラゴン達の骨を砕きながら白いドラゴンは数キロ先の林の中に落下して行った。


絶体絶命の状況から展開されたあまりの光景に、さすがのベノスもすとんとしゃがみ込んでしまった。


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