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漂泊のベノス  作者: ism
【第四部・王都決戦編】

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凶兆

ベッカーとベノスの2人は地下精製場跡のある山中から近くの町まで降りた。

暴走するエルフとの戦闘でボロボロになった服を買い替えた後、酒場に入りあらためて自らの名やピットーとの関係をベッカーに明かしたベノス。


「ピットーと過去にそんなことが…。それにしてもこんなとこで再会するたぁ奇妙な縁があるのかもしれねぇな」

ガヤガヤと騒がしい酒場で酒を飲みながらベノスの話を聞くベッカー。


「名を偽りすまなかった。俺のことをピットーに知られると探索がやりにくくなると判断し咄嗟に…」

「はは、気にするなそんなこと。俺をふくめて冒険者みたいな生業のやつらはみんなスネに傷のあるヤツらばかりだぜ」

そう言うとベッカーはグラスの酒を一気に飲み干し、

「追加の酒を頼む!今日は新しくできた友人の奢りで飲み明かさなきゃならねぇからな!」

と大きな声で店の者に追加の酒をオーダーした。



──ピットーが目を覚ましたのは暴走したエルフがベノスに倒されて丸一日経った後だった。


「う…、ここは…みんなは…」大量に出血したためまだ意識がぼんやりしていた。

「あ!意識が戻ったのね、良かった!」

側で看護を続けていたリーリーがピットーに声をかける。

寝かされている場所は早急に建て直された休憩場のようで、周りは怪我人と手当てする者で騒がしかった。


「あの地下にいたものは…?」

ピットーの問いかけに

「ピットーが襲われて私らすぐに地上に脱出したんだけど、“あれ”も地上に出てきちゃってさ。ヤバいってところで地上の冒険者のひとりが戦ってくれて、なんとか助かったんだぁ」

と緊迫感のない説明をするリーリー。

だがあのエルフを目の当たりにしていたピットーは、あれと戦って撃退した者がいると聞いて驚いた。

「倒したのか⁈あれをひとりで⁈」

「うん。私も治療に必死でよく見てなかったけどレンデイラやボンガルもびっくりするくらい凄い剣の達人でさ。魔力を無効化出来るアイテムも持ってたみたい。レンデイラも地下でゴーレムに襲われた時、その人に助けてもらったんだって。名前や素性は結局わかんなかったみたいだけど」

ピットーは驚きの表情のまま

「そうなのか…みんなその人に救われたんだな。会ってお礼をしたかったなぁ。…それにしてもあんな恐ろしいものが隠されていたなんて思いもよらなかった。軽率だった」

ピットーは探索に夢中になり警戒心を見失っていたチームリーダーとしての自身の不甲斐なさを恥じた。


「…なんかドワーフ達に酷い扱いされてたエルフだったんだって。ドワーフも暴走した魔力が手に負えなくなってあそこに無理矢理閉じ込めてたみたい。デルグが山の精霊が穏やかで静かな場所を探して埋葬したよ。落ち着いたらあらためて弔おうって」

デルグから明かされた地下に隠されていたものの正体とその後のことをピットーにも説明するリーリー。


ピットーはドワーフの所業とはいえあんな状態になった名も知らぬひとりのエルフを思い、胸が痛んだ。

「…そうだね。きちんとお墓を建ててあげなきゃあ」


そこへデルグが血相をかえて駆けつけてきた。

「はぁはぁ、意識が戻ったかピットー」

「ああ、デルグさん。どうしたんだいえらい剣幕で」

魔法による“遠話”で使用する鏡を握りしめ、話し出す。

「ピットー、ラブロウが…!」



──地下精製場跡での出来事から5日後。

ベノスはヘキオン村の近くまで向かう馬車の荷台に乗せてもらうことができ、村への帰路についていた。


夕刻には村に到着できそうだな、予定ではみんなも討伐を終え村に戻っているはずだが…などと考えながら荷台から景色を眺めていた。



その時。

遠く東の空が徐々に黒に染まり出す。雨雲にしては恐ろしいくらいの漆黒で動きも妙だ。


ベノスが目を凝らすとその空を覆う黒い塊はこちらの方角に向かってくる。凄まじいスピードで。


「なっ…⁈なんだあれは…⁈」

驚きの余り声をあげる。

それは陽の光を遮り、辺りは一面夜のように暗くなる。


空を覆うそれはベノスのはるか上空を通過し轟音とともにさらに西へと飛来していく。



真下から見てベノスはようやく気付く。それは群れをなした大量の黒いドラゴンだった。


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