地上への帰還
ベノスとベッカーは、ミミックを退けて開放された入口まで戻ってきた。
「うわっ!なんだこりゃ」
ベッカーは床が抜け崩壊状態の部屋に驚く。
「なにか別の仕掛けが作動してあのゴーレムが起動したんだな…で、ピットーの仲間の女はそれに襲われてあそこまで逃げてきたと」
ベノスは状況から察し、ベッカーとともにまだ床が残る部分を伝い歩き部屋を出た。
部屋の外には数人の冒険者が集まってガヤガヤと様子を伺っており、内のひとりが出てきたベッカーに話かけてきた。
「新たな通路が見つかったのか?ラブロウ支援団の奴らがさっき抜けた床の中に入っていったが」
それを聞いたベッカーは不安気にベノスをチラリと見た。
「…あのパーティには魔法使いが数名いたはず。ピットーもさすがに“あれ”がどういう代物か一目でわかるはずだ。バカの集まりでなきゃ手はつけんだろうさ」
ベノスの見解にベッカーは答える。
「バカの集まりって気がしなくもねぇが…ま、俺たちにゃもう関係ないな」
そう言うと2人は地上へ戻る道を進んで行った。
──ピットーたちラブロウ支援団は、魔力抽出が行われたであろうとベッカーが推察した部屋を探索していた。
魔法使いのデルグはベッカーと同様の推測をしたが反応はベッカーとは真逆だった。
「ピットー、これはもしかすると…より強力なマジックアイテムがまだ眠っている可能性があるぞ!」
「そうなのかい?すっかり引き払われてる印象だけど」
というピットーの言葉に
「ドワーフがこんな魔力抽出技術をもっていたとは思いもよらなかった。これができるならこれまで見つけたマジックアイテムなんぞ子ども騙しだぞ。より高度ものが精製できるはずだ。先を急ごう!」
と、デルグは興奮気味に答えた。
足早に進むデルグを見て、レンデイラは
「やったねピットー。ワクワクしてきた」
とピットーに微笑みかける。
「しかし、何もなさすぎるのが気になるなぁ。今まで探索を続けてきた向こう側のエリアに比べて」
ピットーは一抹の不安をもらした。
「下の階にお宝がたっぷり隠されてるんじゃない⁈行こう!」
レンデイラもデルグに続いて先を進んだ。
──地上まで無事戻ってきたベノスとベッカー。簡易休憩施設で一息つく。
「いやぁ、短い間だったが世話になったなゼロス。楽しかったぜ」
そう言うベッカーにベノスも礼を返す。
「こちらこそ。あんたのおかげで色々と面白い経験ができた。礼を言う。ただ、目的だった魔法の武具を手に入れることができなかったのは残念だが」
「無事帰還できたしお前さんが信用できるヤツってのがわかったから話すが…マジックアイテムが必要なら俺が用立ててやるぜ?」
ベッカーの言葉にベノスは目を丸くする。
「本当か?容易に手に入るものなのか?」
ベッカーは得意気に
「探索中にも話したとおり、エルフやらドワーフ、知恵を持つ獣人たちと色々と縁があって彼らが種族ごと消え失せた件について調べてるんだが、調査の折にマジックアイテムを手に入れて調べることがあるし、詳しい人物とも交流がある。お前さんにならいくらでも紹介するぜ。まぁタダって訳にはいかんがな」
そう言ってニヤッと笑う。
「魔力抽出やらに詳しかったのはそういうことか。それにしてもいいことを聞いた。こちらが必要な物があれば金に糸目はつけない。ぜひ一度、俺が所属しているモンスター討伐団のメンバーも交えて話がしたい。あんたと気が合いそうなメンバーもいるしな」
ロンボルトやアデットのことを思い出し、ベノスは前のめってベッカーに話す。
「俺はイスタンド王都に居を構えている。留守が多いんだが、助手がいて対応するからいつでも来てくれ」
そう言ってくしゃくしゃの紙切れをベノスに手渡す。紙には“ベッカー亜人調査”という名と地図、事業内容が書かれていた。
「ありがとう。ぜひ訪ねさせてもらう」
紙を丁寧に折り、懐にしまうベノス。
「それじゃあ俺はこれで。ベッカー、あらためて感謝する。近いうちにまた会おう。…と、その前にひとつ話しておかなきゃいけないことが」
偽名であること、そう名乗った理由を正直に話そうとしかけたその時、施設の外でボウッと大きい光が瞬いた。
なんだなんだと外の様子を伺う人々。
ラブロウ支援団の者達が転移魔法を使い、地下から緊急脱出してきたのだ。
脱出者の中には血まみれで意識を失ったピットーがおり、リーリーから魔法による治療を受けている。
緊急脱出を行った魔法使いデルグは集まってきたもの達に話す。
「はぁはぁ…ちっ地下に…とんでもないものが…!」
その言葉が言い終わる前に凄まじい爆音が響く。
地下への入り口が粉々に吹き飛び、粉塵の中から何かが這い出てこようとしていた。




