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漂泊のベノス  作者: ism
【第三部・遺跡/ダンジョン探索編】

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ドワーフの秘密

「魔力を抽出?そんな事が可能なのか」

ベノスの問いかけにベッカーは答える。

「ああ、他者の魔力を奪うってのは難易度は高いが出来るらしい。ただここのドワーフたちは相当乱暴なやり方をしてたみたいだな」


確証はないが、各部屋に残る断片的な情報からベッカーはそう察したようだ。

「この地下精製場の話を聞いた時から少し不思議に思っていたんだよな。確かにドワーフの、鉱物の加工技術や鍛治技術は人間のそれに比べレベルの高いものだが…どうやって武具やアイテムに魔法の力を付与するなんてことをやっているんだろうと。エルフと違って、ドワーフも人間と同じく生来魔力を持たない種族だからな」


「例外がいたのでは?所謂“インネイト”がこの部族にひとりふたりいたとか」

“インネイト”──魔力を持たない種族から現れる魔力保持者を指すが存在は極めて稀だ。


「その線もなくはないが、マジックアイテムを大量生産しようと思ったら少数のインネイトに頼るのは効率が悪い。モンスターなら魔力持ちも割と多いからな。それから搾取した方が早かろうぜ」

ベッカーの説明にベノスは、確かに、と納得する。


ベッカーはひと通り各部屋を見回ると通路を歩きながら予測を話す。

「ドワーフたちがここを引き払ったのは周辺の魔力持ちの動物やモンスターが乱獲でいなくなっちまったのも原因かもなぁ、集団消失とは関係なく」

それに対しベノスは

「マジックアイテムを製造し続けなければいけない理由がわからんな。そんな事をせず普通に生活していくことはできなかったのか」

と疑問を投げかける。

「ドワーフってのは人間が思ってる以上に商売っ気が強い奴らだからな。もしかしたらここで作ったものを定期的に卸している相手がいたのかもしれん。そして…オレらが探索した居住区、自動人形の製造格納場所、この魔力抽出エリア、すでに他のパーティが探索し尽くした地下1階から5階までを含めるとここは相当な規模だ。こんな規模の部族集落はそうそう無い。大人数の部族だったことがわかる。みんなを食わせていこうとなるとそれなりの金も必要になるだろうし、いわゆる特産品の製造が難しくなっちまったらここで施設を維持しつつ生活してくのが厳しくなっていったのかもな」


ベッカーの解答にまた別の疑問が湧くベノス。

「ラブロウ支援団をはじめとするたくさんのパーティが探索した鍛冶場、倉庫・貯蔵庫エリアはそれなりにアイテムが残されていて対侵入者用の罠も配置されていたと聞く。それに比べ、これまで誰も見つけられなかった俺たちが探索したこの秘匿されたエリアは、物はほぼ引き払われていて罠もはられていなかった。…なぜ入口を入ってすぐ降りることができる向こう側の地下エリアにはたくさんの物を残して罠をはったんだ?なぜ侵入の難しいこちら側のエリアには何も残さず罠もはらなかったんだ?」

ベッカーもベノスの疑問にふと考える。

「こちらのエリアには奪われると困るものがないから罠をはらなかった…と思ったが、確かにこちらのエリア同様全て引き払えばわざわざ手間暇かけて罠を仕掛ける必要ねぇもんなぁ。」


ベノスは立ち止まって予測をたてる。

「適度な難易度とそれなりのお宝…向こう側のエリアは侵入者の気を引く囮か?」


「何のために?」

ベッカーも、お宝だとかドワーフの足跡とは違う特別な何かが隠されているとベノス同様感じた。


「さらに降りて確かめるしかないな」

2人は通路の突き当たりにあった階段を降り地下6階に歩みを進める。



──地下6階も、地下5階と同じく通路の左右に部屋が並んだものであったが、大きく違う物が2人の目に飛び込んできた。


通路を少し進んだ所に先へは通れぬ様に沢山の岩や土嚢が積み上げられ、さらに上からスペルが書かれており魔法による結界と思しきものがはられていた。

見るからに慌てて道を塞いだというのがわかるものだった。


「…これか。本当に隠したかったものは」

「さてどうするか。すごいお宝が眠っているとみるか、やばい何かが閉じ込められているとみるか」

ベッカーはベノスに問う。


「後者だろう。どうにもならないから置いて行ったんだ。厳重に封をしてな」

ベノスの言葉にうんと頷くベッカー。


「“コレ”から出来るだけ遠ざけるために向こう側の鍛冶場・倉庫エリアにお宝と罠を配置して、侵入者の興味を誘う難解な“ダンジョン風”に仕立てたのか。確かにあっちを攻略し切ったら、これ以上何かあるとは普通なら考えんもんな。誤算は、こんなに長期間、壁も床も徹底的に調べられるとは想定してなかったんだろう」

合点がいったような表情のベッカー。


「魔力の抽出に失敗したか、マジックアイテムの精製に失敗したか。取り返しがつかない事故が起きたんだろうな。場所から推測するに」

ベノスがそう言うとベッカーは

「となると、俺たちが行けるのはもうここまでだぜ。魔法の使えない俺らがこれに触れるのは危険すぎる」

とリスクを鑑みすっぱり諦めたようだった。

それはベノスも同意見だった。


「残念だが、地上に戻ろう」

そういうと2人は来た道を戻っていった。



──レンデイラはゴーレムの格納庫奥のトンネルの先で仲間たちが瓦礫を撤去している音を聞き、すぐ手前で待機していたため、まっすぐ地上への帰路を進むベノスたちと顔を合わせることはなかった。


ベノスとベッカーが大広間まで戻ってきたのとほぼ同時刻、ピットーのパーティは瓦礫の撤去を終えレンデイラと再会していた。


「もぉ〜レンデイラのバカ!どんだけ心配したと思ってんの!」

女性の魔法使いリーリーがレンデイラに声を荒げる。


「ごめん、早とちりしちゃって。でも、やっぱりこの先にあった!未探索のエリアが!」


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