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漂泊のベノス  作者: ism
【第三部・遺跡/ダンジョン探索編】

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53/115

レンデイラの判断

ゴーレムの格納庫の隅でしゃがみ込むレンデイラと側で具合をみるベッカー。


格納庫の奥のトンネルから様子を見に行っていたベノスが戻ってきた。

「奥は崩れた瓦礫で塞がっているな。支援団に合流するには俺たちが来たルートを戻るしかないぞ」

とベノスが告げるも、レンデイラは痛みに顔を歪めていた。

「よくこんな状態で走り回ってたな。頭の骨にヒビが入ってかもしれねぇぞこりゃ。」

頭を抑える布は血で滲んでいる。


「どうする?一度連れて戻るか?」

冷静に見つめるベノス。

「仕方ねえ、こいつを使うか」

ベッカーはカバンから瓶を取り出し蓋をあける。


「な…何それ…」

痛みに耐えながら訝しむレンデイラに

「とっておきの秘薬だよ。傷を見せな」

とベッカーは瓶の中を見せる。瓶の中にはキラキラと光る雪のようなものが入っており、それを少量レンデイラの頭の傷にかけた。


「……え…すごい、ウソみたいに痛みが引いていく」

「手を出しな。一口含んどきゃ30分くらいで全快するはずだ」

ベッカーはレンデイラの人差し指の先に秘薬をほんの少し出した。

恐る恐るそれを舐めるレンデイラ。


「うわー…ホントに他の傷の痛みも…。何なのそれ?」

「エルフの特効薬だよ。貸しだぜコイツは」

ベッカーはニヤリと笑って立ち上がった。


「この部屋を出て通路を左にずっと進んだ先の階段を上がれ。それを上がって広間に出たら隅に小さな通路がある。そこから探索済みの地下3階にいける。モンスターはおらんしお前さんなら自力で戻れるだろ。よーしゼロス、俺たちは引き続き探索を進めようぜ」

と、荷物を背負いさっさと探索に戻ろうとするベッカー。

「置いていって本当に大丈夫か?」

ベノスは少し不安気に尋ねる。


「息があって重篤な欠損なしなら大概の怪我は問題なく完治できる。貴重なやつだからあんまり使いたくなかったが」

そこまで言い切るなら、とベノスも荷物をまとめ先に進もうと歩き出す。


「ちょっと待って!私も同行させてもらえない?」

レンデイラの声にベノスとベッカーは立ち止まり顔を見合わせる。


「同じチームの連中が心配してるんじゃないか?早く戻ってやった方が」と言うベノスに、ベッカーも

「そうそう。それに今んところ人手も足りてるんでね」

とすげなく言い放つ。


「仲間を振り払って危険をおかして来たんだ。大した成果もなしに戻れないよ」

レンデイラが言うと

「お前さんの事情は知らんよ。それになぁ…おたくらのチーム、優秀なのかもしれんがあんまりいい噂はきかねぇし」

ベッカーは少し冷ややかな態度で返した。


「評判悪いのかラブロウ支援団」

ベノスが尋ねると

「ダンジョン内で他のパーティと出会って合同で探索を進めたはいいが、協力させといて質のいい取得物はラブロウ支援団がごっそり持っていっちまったと何度か耳にしたぜ。ま、早い者勝ちと言われたら確かにそうだがな」

とベッカーは答えた。


レンデイラはムッとしてまくしたてる。

「人聞き悪いこと言わないでよ。合同探索した時は必ず折半してるし、相手方に先に選んでもらってる。目利きができないのはむこうのせいでしょ?それにウチらと同等の探索が出来てたパーティなんてひとつもないよ。毎回ウチらが助けてフォローしてあげることばっかなんだから」


レンデイラに気圧されるも、ベッカーは

「ほーん、そうなのかい。なんでもいいがオレらはオレらでやるからよ。じゃあな」

と先に進む。ベノスもラブロウ支援団の者と絡む選択肢はないのでベッカーに続いた。


レンデイラは納得のいかない顔をしつつ少しずつ楽になって来た頭の傷をおさえながら去っていく2人の後を見送るしかなかった。



──地下3階。

知らせをうけ地下5階にいたピットーとデルグは急いで地下3階に駆けつけた。


「魔法で瓦礫を吹き飛ばすか?」

デルグがいうと、地下3階探索メンバーのひとりが

「実は俺たちもさっき瓦礫を除去しようとしたら余計瓦礫が崩れて…もっと崩落が広がるかもしれない」

と話す。


ピットーは

「たしかに乱暴に粉砕してこれ以上崩れてしまったら厄介だ。レンデイラの生死に関わるかもしれないし。慎重に、少しずつ瓦礫を撤去していこう。」

そういって腕力に自信のあるメンバーと共にゴーレムがぶち抜いて現れた部屋の、塞がってしまった通路前の瓦礫を除く作業をはじめる。


「全くレンデイラのバカ、無謀にもほどがある」

鎧を着た体格のいい戦士風の男はがため息をついて呟く。

「でもボンガル、彼女の直感でパーティが活路を見出したことがこれまで何度もあったじゃないか」

「そうだけどよぉ…」

釈然としない男戦士ボンガルに、ピットーはほこりまみれの顔で笑う。


「まーさすがに今回はガッツリ叱んないとね」

ゴーレムに拘束魔法をかけた小柄な女魔法使いはレンデイラが説教されてシュンとしている姿を思い浮かべていたずらっ子のような笑みを浮かべる。

「ははは、そんなこと言って彼女がお宝持って帰還したらみんな手のひら返したりしない?お前を信じてたぞ!とかなんとかいって」

レンデイラは必ず生きている信じて疑わないやりとりから、ラブロウ支援団の彼女に対するあつい信頼がうかがえた。



──ベノスとベッカーは、進んだ先にあった階段を降りて地下5階へ。


通路の左右に部屋が並ぶ。

各部屋には工具や医術道具のようなものと、先ほど見たゴーレムに入っていたような魔力封入器であろう水晶片が少しばかり残されているだけだった。


「医務室、治療室の類いか?」

部屋の中を調べながら話すベノスに対しベッカーは、どす黒いシミが残る中央の寝台を触って答えた。


「コイツは…施術室じゃねぇか?生き物から魔力を抽出するための」

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