ゴーレム
大広間にあった階段を降り、地下4階にやって来たベノスとベッカー。
そこにはたくさんの製造途中の防衛用の自動人形と、それらの素材となる石や粘土が置かれていた。
中でもひと際大きい自動人形──ゴーレムが数体置かれた部屋にたどり着いた。
「ほぉ〜すごいなこりゃ。こんなヤツが襲いかかってきたらどうしようもないな」
ベッカーが驚いていると、ベノスはゴーレムに触れ素材や仕組みを確かめている。
「全身が石や鉱物かと思ったらそうでもないな。関節部分や繋ぎ目は粘土や動物の皮か何かでできているぞ」
どこかでトラップを発動させてしまい、このゴーレムが現れた時の対処法をさぐるベノス。
「倒す気かよ?こんなデカブツ」
ベッカーはオイオイという顔をするが、ベノスは至って真剣だ。この地下だけでなく、今後モンスター退治を請け負った時に同種のモンスターと戦うことになるかもしれない。そういった考えもあった。
ゴーレムの身体をよじ登り背中や首の部分を確認する。
「お、ここも意外と柔らかいな。ん?これは」首筋の部分の粘土を力尽くではがすと中にガラス玉のようなものが見え、腕を突っ込んでひっぱりだす。
「ベッカー、こいつはもしや」
「あぁ、たしか魔力を込める特殊な水晶かなんかだな。魔法使いの持っている杖とかにもついてるヤツだ。それに魔力をこめてコイツの動力にするんだろうぜ」
「コレを破壊できれば動きを止められるということか」
ベノスは要領を得たという表情でゴーレムから降りてくる。
「今のところ、本業はモンスター退治なんでね。倒せるヤツかどうかキチッと確認しておきたかった」
「は〜研究熱心なこって」
ベッカーは素直に感心したのか軽い皮肉かよくわからないことを言うと、ゴーレムの部屋にある大きめのトンネルの先へ進もうとする。
「ん?なんだ今の音」
ベッカーはトンネルの奥から音が響いてくるのを耳にする。
そしてその音は少しずつこちらに近づいてきていた。
「…おい、なんかこっちに来るぞ!」
焦るベッカーにベノスは避難を促す。
「とりあえずこの部屋から出た方がよさそうだな」
部屋から出て様子を伺っていると、奥から息を切らして走ってくる人影が見える。
「あ!あいつは確かラブロウ支援団の…!」
ベッカーは走ってくるレンデイラを見てベノスに言う。
直後、後ろからまるで大型の山猿のような動きのゴーレムがレンデイラを追いかけてくる。
「ゴーレムか!追われてるぞ」
ベッカーの声に、すかさず物陰から放棄されたゴーレムの一体にかけあがるベノス。
そしてレンデイラを追うゴーレムの背中に飛び移った。
追うのをやめ、ベノスを引き離そうとするゴーレム。だがゴーレムの構造上、腕は肩のあたりにしがみつくベノスには届かない。
ベノスは暴れるゴーレムによじ登ると剣で首筋の粘土を斬り裂いた。内部にはぼんやり光る水晶が見える。
「さっきの研究がこんなにすぐ役にたつとはな」
ニヤリとして水晶に剣を突き立てる。水晶が砕け散るとゴーレムは力が抜けたようにぐしゃんと地面に伏した。
「おい、大丈夫か?」ベッカーはへたり込むレンデイラに駆け寄る。
「あ、あんた達は…⁈」
驚いた表情でベッカーとベノスを見るレンデイラ。
「あ〜ぁ、俺らだけで独占できるルートを見つけたと思ったのにすぐお前さんらにも見つかっちまうとは」
ベッカーが残念そうに言うとレンデイラは
「あ…もしかしてミミックのトラップを発動させたのはアンタら?」
と言うと、痛みに耐える表情をしながら頭を抑える。先ほどゴーレムが放った石つぶてによって負った負傷がズキズキと痛みだしたのだ。
「とりあえず休んで手当てした方がよさそうだな」
ベノスはレンデイラに歩み寄って声をかけた。




