ドワーフの地下精製場跡
ヘキオンズコープスのベースでの話し合いから5日後。
ベノスはジャルガから教えられた地、ヘキオン村の遥か北東のハーズメリア隣国イスタンド王国内の山中にあるドワーフの地下精製場跡にたどり着いた。
ヘキオンズコープスのメンバーは同行を希望したが、すでに次のモンスター討伐が決まっていることやベノスから端を発した問題であったため今回に関しては単独で行くことをベノスは強く望み、ひとりこの地を訪れたのだ。
何よりジャルガから難度の高いダンジョンで多くの者が挑戦しているが命を落とす者も多いと聞かされていたため、なおさら危険な探索に仲間を巻き込めないという思いもあった。
ひと気のない深い山中の坑道をイメージしていたベノスは到着して驚いた。
地下精製場の入口周辺にはたくさんの屋台や簡易休憩施設がならび、地下へアタックする冒険者達で賑わっていたのだ。
この一年ほどの間で魔法の武器道具を求めてこの地下精製場跡を訪れる者が急激に増え、その冒険者ら相手に商人達が商いをするようになったため小さな街のような状態になったらしい。
すでに上階はあらかた探索されつくされており、さらに深い階層のトラップやドワーフらがかつて使役していた防衛人形らの攻略に冒険者らは躍起になっているようだった。
(もしかしたら無駄足だったかもしれんな…)
そう考えながら一番大きめの休憩施設で一息つくベノスに、店主が声をかける。
「おや、見ない顔だな兄ちゃん。来たばっかかい?」
「ああ、つい先刻」
「残念だが、もうそこそこの腕がある程度じゃ深いとこにゃ進めねぇぜ。昨日、長いことアタックしてた古参のパーティが地下5階から死体になった仲間連れて帰ってきた。あいつらでムリならもうこっから先に進めそうなのはラブロウ支援団の連中くらいだろうなぁ」
ベノスは思いがけない名前を耳にし驚いた。ラブロウ支援団?
「なんだその連中は?」ベノス店主に尋ねる。
「今各地でモンスター倒しながら魔導士メレラ討伐のために東に向かってる光の勇者ラブロウは知ってるよな?その勇者を物資やら金銭面でバックアップしているのがラブロウ支援団なんだとよ。なんでも勇者が昔いた騎士団の友人が大富豪の息子で、そいつが結成して王都から指揮を取ってんだそうだ」
それを聞き、ひとりのふくよかな少年の顔が思い浮かんだ。
──ジロッサか。今そんなことを…。
「ここで入手した武器やアイテムを勇者達に送ったり不要な物は売り払って運営と支援にあててんだと。地下に残ってた物もほとんど連中がもっていっちまったからな」
「優秀なチームのようだな。どんなメンツなんだ?」おしゃべり好きな店主にベノスも情報を聞き出そうと質問を重ねる。
「まぁ殆どはそれなりの冒険者で構成されてるが腕の立つ女の剣士と魔法使いがいるんだよ。あとチームリーダーの小僧がいい目利きなんだ。武器アイテムの選別や売買交渉が上手くてなぁ。たしか道具屋のせがれらしくてそいつも勇者の騎士団時代の友人なんだとよ」饒舌に話す店主の話にまたもベノスは驚いた。
(ピットーか!あいつまで…。…ということはこのすぐ近くにあいつがいるのか。
少し、いやかなり面倒なことになりそうだなこれは。)
少し逡巡していたベノスに店主がふいに大きな声をあげる。
「おっ!ウワサをすれば!よぉピットー、お疲れさん!」
「ただいま、ユッケラさん。お腹空いたなぁ、全員分の食事頼むよ」
ピットーは明るく店主にオーダーする。一年前と変わらないながらも少し逞しさを備えたその顔を見て、ベノスはフードを目深に被り口元を首に巻いていたスカーフで覆った。
「…邪魔したな。色々聞かせてもらって礼を言う」
ドリンクの代金を払うと席を立った。
「おぅ、あんちゃんもせいぜいがんばんな!」
混み合う狭い休憩施設の中、すれ違うピットーとベノス。
ピットーは仲間との会話に夢中でベノスには気付くことはなかった。




