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漂泊のベノス  作者: ism
【第三部・遺跡/ダンジョン探索編】

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魔法対策

「じゃあそろそろ飯にすっかあ」

木こりのブランは息子のオレスと共にヘキオン村近くの川辺で昼食をとろうと腰をおろした。


「父ちゃん、一旦村に戻ろうよ。この間ロインとカッツが川辺でモンスター見たっていってたんだ。頭が蛙で体が人間のやつ」オレスが不安そうにブランに言った。

「ははは、蛙人間なんぞ父ちゃんが斧でぶつ切りにしてやらぁ。なんせ父ちゃんはリザードマンとも互角にわたりあったんだからな」

そういって肉を挟んだパンにかじりついた。

仕方なくブランの隣に座ったオレスは川の方を警戒しながら食事をしだす。

そう言いながらも内心はブランも心配していた。1年前のリザードマンの騒動以来、村の付近でモンスターが出没したことはなかったが、昨今の世界中のモンスター騒ぎはこんな村にも聞き届いているし、なによりベノス達ヘキオンズコープスが忙しそうにあっこっちへモンスター退治に出かけている様子を見ると被害は各地で起きているんだなと実感している。


ふと川の方へ目をやると、川の真ん中にある岩がひとつ微かに動いたように見えた。…ああ、あんない岩にもビクビクしているようじゃいかんな、と思ったがよく見てみると、あれは…。

「…!オレス、父ちゃんの後ろへ!」

そういうとすぐパンをカバンにしまい、オレスを庇う様にしながら斧を手に持った。


川の中央付近から人間の頭と同じくらいの大きさの蛙の頭がこちらを凝視している。

「うわぁ!やっぱりいたじゃんか!」

オレスが声をあげると蛙の頭はすーっとこちらに近づいてくる。川から見えた半身は確かに人間だ。


「大丈夫、一匹くらいならなんとかな…」

言いかけたところで川の中から次々と蛙人間が浮上してくる。7〜8体の蛙人間──“ヴォジャノーイ”が姿を現した。


「オレス!走って村まで戻るんだ!」

斧を構えたブランはオレスに逃げるように促す。

「でも…」

「早くしろ!」

ヴォジャノーイたちはゆっくりブラン達に近づく。


オレスが走り出そうとしたその時。森の中から猛スピードで黒い影が飛び出してきた。

「エンリスだぁ!」

オレスが驚いて声をあげた。

エンリスはブラン達を守るようにヴォジャノーイの前に躍り出た。低く唸るエンリス。

ヴォジャノーイ達は一斉に飛びかかりエンリスの身体を押さえつける。…が、エンリスはまるで木の葉でも払うかのように身を震わせまとわりついたヴォジャノーイたちを散らす。

そして近くのヴォジャノーイの頭をひと噛みで噛み潰した。


ヴォジャノーイたちはエンリスに、一斉に口から粘液を吐きかける。並の人間ならその薄気味悪い粘液に動きを封じられてしまうはずだが、エンリスには全く通じずそれどころかエンリスの攻撃性に火をつけてしまった。

目にも止まらぬ速さで跳躍したエンリスは次々とヴォジャノーイたちを食いちぎり、数秒もかからぬうちにヴォジャノーイたちは全て肉片と化してしまった。


「すっげぇー!エンリス強かったんだな!」

嬉しそうに駆け寄るオレス。

「いやぁ…助かった。それにしてもいつも寝てばっかりのお前がどうして突然ここに…」


(“ゾゴム”デハ、ナカッタカ…)

心の中で落胆したエンリスはさっさと帰るぞ、といったそぶりでブラン達を鼻でグイと押した。


──ヘキオンズコープスのベース。

ゾゴムの襲撃から2日ほど経ち、やはり皆んなにも話しておくべきだとベノスはアフとともに鏡を使った“遠話”ごしのジャルガも交えヘキオンズコープスのみんなに打ち明けた。


そしてエンリスにもある意外な変化が起きていた。


「エンリスが、そんなことを…」

「ええ、2日前ゾゴムって男にやり込められたのが相当アタマにきてるみたい。近くで何かを感じると物凄いスピードで飛び出していくんだから」

アフはベノスにエンリスのことを伝えた。


「なんだ、ただ寝てるだけのデカい犬かと思ってたぜ。ちゃんと番犬してるんだな」タウザールは感心するように言った。皆、エンリスが魔界出身のモンスター・ヘルハウンドであることはまだ知らないため、ゾゴムとの戦闘はほぼベノスの力で切り抜けたものだと思っているようだった。


「…厄介なやつに目をつけられてしまった。今後もまた突然姿を現すかもしれん。タイミングによってはみんなや村を巻き込む恐れもある。迷惑をかけてすまない」

ベノスは申し訳なさそうな表情でみんなにつげる。


「何か対策が必要だな。聞けば相当強力な魔法使いのようだ。僕たちでは間違いなく太刀打ちできない。以前から懸念していたが、我々は魔法に対して現状全くの無力だ。この件がなくとも、今後魔法を使ってくるモンスターと対峙する局面は大いにあり得るからな」

ロンボルトは腕組みをして考え込む。


「先生、魔法ってのはよ、俺たちでも練習で何とかなるもんなのか?」タウザールがアフに問いかける。


「…はっきり言うわ。“普通の”人間がいくら鍛錬を積んでも魔法を使うことは出来ないの。親からか、そういう一族の生まれか、遠い祖先か。何らかの受け継いだ素養がなければ。みんなも私から感じたことがあるでしょう?ベノスはラブロウから。何か違う空気というか、妙な感覚を」


そう。魔法を使わない普通の人間だからこそ感じる“魔力”の醸し出す違和感。持つ者と持たない者の境界があるのだ。


「さて、どうするか…」

アデットが言うと、後ろから

「…挑戦してみるか?」今まで無言だった鏡の向こうのジャルガが突然口を開いた。

「うわっ、何だ急に。挑戦ってなんだよジャルガさん」

驚いたスリッグスはジャルガに聞き返す。


「今はダンジョンと化している、かつてドワーフが魔法の武器を精製していた地下施設さ」


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