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漂泊のベノス  作者: ism
【第三部・遺跡/ダンジョン探索編】

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45/114

夜の来訪者

──メクスドラでのミノタウロス討伐から数日後。

ベノスたちはヘキオン村に戻っていた。


村外れのロンボルトの小屋だった建物は、ヘキオンズコープスのためのベースとして大きく増築。ベノスは一部屋を自室として寝泊まりしていた。

夜もふけ、ロンボルトとベノスは地下室で武器のメンテナンスや討伐の記録などをつけていた。


「さて、そろそろ帰るとするかな。まだ地下室で作業するかい?」と尋ねるロンボルトに

「いや、俺も自室に戻る」とベノスは答え、2人は地下室を厳重に施錠し上に上がっていった。ロンボルトを見送った後、ベノスは自室には行かず外出用のランタンに火を灯した。


ロンボルトにも明かさず向かった先は診療所だった。


診療所の窓から明かりがもれており、アフはまだ起きているようだったが中には入らなかった。なぜなら用事があるのはアフではなく──


「エンリス、起きているか?」

巨大な犬エンリスはゆっくりと物陰から姿を現す。


「ヌウウ…コンナ夜中ニ何ノ用ダ」

エンリスは少し不機嫌な様子でベノスを見た。

すると突然、口から炎が漏れ出す。


「うわっ!夜中に来て悪かった、そこまで怒らなくても…」

「チガウ!身ヲフセロ」

何かを察したベノスはすぐ身をかがめた。次の瞬間、エンリスはフッと小さな火球を木に向かって吐いた。


木の上にいた何かに火球は直撃、キイイと鳴きながら地面に落ちてもがきながらやがて動かなくなった。触手を生やした巨大な目玉だった。


「キサマ、何カニ監視サレテイタゾ」


まさか…あの少女か?気づかれていた?

嫌な確信が頭をよぎった。


「コイツは誰の差し金で俺を?」

「ソコマデハワカラヌ。タダ、並の使イ手デハナカロウ。ハリツカレテイルノモ気ヅカヌトハ、情ナイヤツヨ」

エンリスはベノスを見下すように言った。


「…お前に知恵を借りたい」ベノスが言うと

「フン、キサマニ知恵ヲ貸シテ何ノ得ガ…」エンリスが言いかけたところで

「何の騒ぎ…あ、ベノスじゃない」

外の音を耳にしてアフが診療所から出て来た。


「先生ならいても問題ないだろう。ここ一年のモンスターの急増。闇の魔導士とやらが発端らしいが、そこまで強い影響力が一個体にあるのか?」ベノスの問いに

「闇の魔導士?何の話?」アフは不思議そうにエンリスに聞いた。


エンリスはアフの手前、仕方なさそうにベノスに答える。

「グルル…貴様ノヨウナトルニタラン人間ガ、上ニ立ツ者ノ発言ヤ態度ニ影響サレテ動クヨウニ…下級ノ魔物ドモモ強イ“魔力”ノ影響ヲ受ケルト、凶暴性ヤ攻撃性ガ大キク増ス。ソシテソレハ、噂話ガ広ガルヨウニ、魔物カラ魔物ヘ“伝播”シテイクノダ、オレノ様ナ強キ者ヲ除イテナ」


「闇の魔導士とは別に、このハーズメリアや隣国メクスドラを活動拠点とする強い魔力を持った者がいる。人間なのかそうじゃないのかわからないが。恐らくこの目玉もそいつの差し金だろう。強い影響を及ぼす魔力を逆に探知することはできないか?」

メクスドラでの遭遇で向こうは確実にこちらを認識しており、何の目的か監視までつけてきた。戦いを挑んだとて魔法による攻撃には太刀打ちできない。一年前のラブロウとの“決闘”で、そういった能力を持つ者とは決定的な差があると確信していた。とはいえ何もせず黙って後手に回るのも愚かだ。何か手立ては…せめて居場所を探るぐらいはできないか、という思いでエンリスに尋ねた。


「ソンナモノハ無意味ダ。強イ力ヲ持ツ者ホド、ソノ放出ハ自由自在。常時魔力ヲ放出シテイルトハ限ランシ、市井ニ紛レテイルナラナオサラダ、コノ俺ノ様ニナ」

「そうか…」ベノスは再び考えを巡らす。


「例エ、所在ヲ探知シ戦イヲ避ケル為距離ヲトロウガ…存在ヲ認識サレテシマッテイレバ、強イ魔力ヲ持ツ者ナラ簡単ニ“転移”シテ貴様ノ目ノ前ニ現レルゾ」


「そう、こんな風にね」

ベノス達が振り返ると歪んだ空間からあの正装の大男が現れた。あの少女──ディアボリカの従者・ゾゴムだった。


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