ヘキオンズコープス
メクスドラ王国の東部の山中に、昔ある部族が儀式のために造った巨大な地下宮殿がある。部族間抗争の果てに建造した部族が滅びてからは足を踏み入れる者もなく長きに渡って放置されていた。
そこにいつからか牛頭人身のモンスター・ミノタウロスが住み始め、近隣の集落の者を攫うようになった。
以前から細々と各地の害をなすモンスターを研究し駆除または退治を行っていたジャルガは、モンスターが急増し始めたこの一年の間であちこちにお呼びがかかったことで急激に名をあげ、今や国内外で大忙しだ。
ロンボルトはベノス、タウザール、スリッグス、アデットらとモンスター専門の討伐チーム「ヘキオンズコープス」を立ち上げジャルガと契約、モンスター退治に度々同行しておりこのミノタウロスの件でも地方領主から大金を積まれて退治を懇願されたため現地に向かうことになった。
「よーし弱ってきてんぞ!もう一押しだ!」
タウザールはミノタウロスの周囲を旋回しつつ連続で矢を放ち、大盾を構え正面からミノタウロスの攻撃に相対するスリッグスに声を上げる。
「タウザール、近づきすぎるな!標的になるぞ!」
ロンボルトの声に後方に退くタウザール。
全力で振り回された戦斧にスリッグスは防いだ大盾ごと吹っ飛ばされ体勢を崩す。その時、昔儀式で使われていたであろう祭壇から高く飛翔しミノタウロスの頭上に急降下する影が。
スリッグスに追撃を加えようとしたミノタウロスの後頭部に大上段から深々と剣が突き立てられると、ミノタウロスはそのまま崩れ落ちた。
「…ふう。」
ベノスは倒れたミノタウロスの上で剣を突き刺したまま息をついた。
「よっしゃー!」
タウザールは歓声をあげ、ミノタウロスの死体にかけよる。
後方のアデット、ジャルガも集まってくる。
「火器や大型武器が使えない空間では3人の腕に頼るしかなくなってしまうな」
ロンボルトはスリッグスに手を貸し起こしながら言った。
いつもは鉄砲・弩弓で後方支援のロンボルト、アデットらだが、今回は出番はなかったようだ。
「前のダンジョンの一件みたいなことになるくらいならオレらだけでやった方がマシだっての」とタウザール。
少し前の討伐でも似たような状況下で戦闘を行ったのだが、閉鎖空間では目潰し煙幕は当然使えず、接近戦となると弩弓が上手く使えない上とどめに放った鉄砲の爆音が反響し耳がやられるなど散々なことがあったのだ。少し考えれば予測できそうなもののロンボルトらしからぬヘマだった。
「ははは、いい教訓になったじゃないか。」
特に反省の色もなく笑って流すロンボルト。
「それにしてもコイツもまたデカいな。全くどいつもこいつも今までどこに潜んでたんだ?」
ジャルガはミノタウロスを観察して呟いた。
この一年、たくさんのモンスターを退治してきたがどれも通常のサイズの1.5倍から2倍のものが多い。群れをなしているものの中にも必ず大型のものが混じっている。かつてベノスが倒したゴブリンやリザードマンのように。
「とっとと地上に上がろう。ここは息苦しくてよぉ」
討伐の証拠となるミノタウロスの首を刈り、一行は地下宮殿を後にした。
──翌日。
依頼してきた地方領主のもとを訪れたベノス達は、大変な感謝をうける。
「いやぁ、助かった!王国兵は恐れをなして討伐を引き受けんし、冒険者どもも昨今の騒ぎで強い者たちは出払ってる上引き受けてもすぐに尻尾巻いて逃げよる。貴公らに依頼して本当によかった!噂に違わぬ実力だった!」
地方領主は大喜びだ。
「また、何かありましたら我々に。モンスター退治でしたらすぐかけつけますよ」
普段の倍以上の報酬をもらったジャルガもこれを機に取り入ろうとしているようだった。
「とはいえ、勇者が魔王を倒してさえくれればモンスター騒ぎも落ち着くんじゃないのかね?」
「…勇者?魔王?なんですかそれ?」
地方領主の妙な話にロンボルトは思わず聞き返す。
「おや、知らんのかね?光の力を持った勇者が現れて、モンスターを束ねる闇の魔導士と戦っとるっちゅう話。近頃うわさになっとるよ。なんでも元々ハーズメリアの騎士だったとかなんとか」
光の力…ハーズメリアの元騎士…まさか。ベノスの中である人物が思い当たった。




